BmETSタンパク質はETSドメインをもつ転写因子群の一つで、細胞の分裂や分化の調節に関わっている。BmEtsmRNA(以下mRNA)は非休眠卵では蓄積されず、休眠卵では産卵後20時間から転写、蓄積される(Suzukiら, 1999)。休眠機構とBmEtsの関係を明らかにするにはmRNAの卵内分布を知る必要があると考え、カイコ(p50T系統)の休眠性卵と非休眠性卵をin situ hybridization法で観察した。その結果、産卵後20時間の休眠性卵では胚子全体に一様なシグナルがみられ、さらに産卵後3日、30日の休眠性卵でも胚細胞に一様にシグナルがみられた。一方、非休眠卵では産卵後20時間の胚子ではシグナルがみられなかったが、産卵後6日の胚子では腹部神経球の神経細胞部分にシグナルの局在がみられた。また、非休眠卵由来の5齢3日の幼虫では中腸細胞に特異的にシグナルがみられ、蛹期の中腸腔内に脱落した幼虫の中腸細胞でもシグナルが観察された。蛹の中腸細胞ではシグナルが見られなかった。以上より、BmEtsは休眠期だけではなく、胚発生や幼虫や蛹における形態形成にも関与していることが推測された。