生体内に侵入した細菌は自己の生息に不利な環境下では、壊死組織あるいは縫合糸等の異物などに付着し、粘液状の多糖類であるグリコカリックスを産生し、それに包まれて分裂、増殖を続け、付着物の表面を覆う。この細菌の塊は膜(フィルム)のように見えることからバイオフィルムと呼ばれる。バイオフィルムは抗菌剤等の除菌に対して抵抗性を持つことから、医療上の問題となっている。一方、抗菌性タンパク質は抗菌スペクトルが広く、薬剤耐性病原細菌を殺すことができるため新しい抗菌剤としての利用が期待されている。我々はカブトムシ体液から抗菌性タンパク質ディフェンシンを分離精製し、その活性中心をもとに改変を行い、さらに、抗菌スペクトルが広く、活性の強い9merのペプチドを合成した。この改変ペプチドの医薬分野への応用として、絹縫合糸に改変ペプチドを付着させ、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染マウスの皮下に糸を縫いつけ、バイオフィルム形成阻止効果を検討した。その結果、この改変ペプチド付着縫合糸は、マウス皮下でのバイオフィルム形成阻止に効果があることが明かとなった。