日本蚕糸学会 学術講演会 講演要旨集
日本蚕糸学会第72回学術講演会
選択された号の論文の159件中1~50を表示しています
  • 小島 桂, 浅野 眞一郎, 佐原 健, 伴戸 久徳
    p. 1
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    バキュロベクターを用いた外来遺伝子発現系では、ウイルス増殖に依存して外来遺伝子の高い発現量を達成しているが、ウイルス増殖に伴う弊害もある。そこで、ウイルス増殖を伴わないプラスミドベクターを用いて効率的な外来遺伝子発現系の構築を試みた。これまで我々は、BmNPVのie1プロモーターを改変することでその発現活性を飛躍的に向上させ得ることを報告した。この改良ie1プロモーターとカイコ·フィブロイン(H)鎖遺伝子のポリ(A)シグナルを用いた新規高発現プラスミドベクターを構築し、カイコ培養細胞BmNにおいてルシフェラーゼを発現させたところ約300pg/(cell·3days)の発現量が得られ、報告されているバキュロベクター系での発現量を上回る発現活性が確認された。また、分泌型タンパク質であるカイコ·リゾチームを発現させた場合では形質転換後3日目の培養液中に約46μg/ml(900pg/(cell·3days))に相当する活性が得られ、分泌型タンパク質に関しても高い発現効率が得られた。
  • 池田 敬子, 森 肇, 細川 陽一郎, 増原 宏
    p. 2
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    昆虫ウイルスには、感染細胞内で自らを保護するために単一タンパク質が結晶状に会合して形成された封入体(多角体)の中に取り込まれるという現象が見られる。この多角体の中に取り込まれたウイルスは紫外線などの外部環境から長期間保護される。この多角体が摂食により中腸に運ばれると、pHが10以上の中腸液により速やかに溶解し、感染が開始される。我々は、この多角体がタンパク質の結晶であり、しかもその中に閉じ込めた分子の生理活性を長期間維持できることに着目し、タンパク質の立体構造や生理活性を解析するための道具として利用出来るのではないかと考えた。そこで、カイコ細胞質多角体病ウイルス(Bombyx mori cytoplasmic polyhedrosis virus, BmCPV)の多角体の中にウイルスだけが何故取り込まれるのかを調べた。その結果、多角体の中にBmCPVが取り込まれるのには、ウイルスを構成するタンパク質の中で外側に位置するタンパク質(VP3)と多角体を構成するタンパク質(polyhedrin)との相互作用によるものであることを見い出した。さらに、このVP3とpolyhedrinを使って、機能性タンパク質のみを取り込んだ多角体(機能性タンパク質カプセル)を作ることができるようになった。また、この機能性タンパク質は多角体内部に包埋されているだけでなく、表面にも一部露出していることが明らかになった。露出した機能性タンパク質部分を用いてタンパク質分子間での相互作用を解析するために、機能性タンパク質カプセルをプロテインチップの一素子とした用途が期待される。そこで、機能性タンパク質カプセルをプロテインチップとして利用するための具体的な方法を提案する。
  • 長沼 孝雄, 阿保 洋一, 塩見 邦博, 梶浦 善太, 中垣 雅雄, 内海 利男
    p. 3
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    リボソーム酸性Pタンパク質は, タンパク質合成の翻訳過程において重要な役割を担っているタンパク質である。さらに, C末端配列中に存在するセリン残基がリン酸化をうけ, このリン酸化が, タンパク質の翻訳活性に影響を及ぼすといわれているが詳しいことはわかっていない。そこで, バキュロウイルス発現系を用いリボソーム酸性Pタンパク質を発現させ, 機能解析を行ってきた。しかし, バキュロウイルス発現系を用いて昆虫培養細胞内で発現させたとしても, リボソーム酸性Pタンパク質の発現率は低い。このことについては細胞内に蓄積したリボソーム酸性Pタンパク質のネガティブフィードバックが原因ではないかと考えた。もしそうであるならばリボソーム酸性Pタンパク質を細胞外へ放出させ, 細胞内蓄積を回避させることにより発現量はさらに増加することが期待される。著者らはリボソーム酸性Pタンパク質にミツバチメリチンタンパク質のシグナルペプチド(HBM)を付加した。その結果, リボソーム酸性Pタンパク質の発現量を増加させることができた。今大会では培養細胞ならびにカイコ虫体を用いヒトリボソーム酸性Pタンパク質を大量に発現させ, それを精製した。さらに構造·機能解析を行ったので, その結果について報告する。
  • 清水 一彦, 近藤 由隆, 西田 祐二, 塩見 邦博, 梶浦 善太, 中垣 雅雄
    p. 4
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    女郎蜘蛛(Nephila clavipes)は数種類の糸腺をもち、それぞれの腺で異なる機能を持つ糸を生産している。その内の1種類である横糸は、GPGGXを主とする繰り返し配列が特徴的で、この配列はエラスチンやグルテン等のタンパク質でみられる、β-spiral構造をとると考えられている。この構造が横糸の200%以上にも及ぶ高い伸張率の要因になっていることが示唆されている。この大変優れた性質にもかかわらず、横糸がほとんど利用されていないのは、女郎蜘蛛が蚕のように大量飼育できないこと、また糸腺が蚕のように大きくなく、一頭あたりからとれる糸の量が少ない、などの理由で大量生産が難しいからである。そこで今回、我々は大腸菌発現系及びバキュロウイルス発現系を用いて横糸タンパク質の発現を試みた。バキュウロウイルス発現系を用いて発現した横糸タンパク質は、微量ながらもウエスタンブロティングにより1バンド検出された。大腸菌を用いての横糸タンパク質の発現では、バキュウロウイルス発現系と比べて多くの量が得られたが、ラダー状のバンドとして検出された。現在、発現タンパク質の調査を進めるため、ラージスケールでの発現を行っている。
  • 礒部 良子, 小島 桂, 全 国興, 神田 俊男, 田村 俊樹, 佐原 健, 浅野 眞一郎, 伴戸 久徳
    p. 5
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    家蚕核多角体病ウイルス(BmNPV)耐性カイコを作成する手段の一つとして、BmNPVの増殖に必須なウイルス遺伝子の発現を抑制する遺伝子をカイコへ導入することが考えられる。すでにBmN細胞を用いた一過性発現実験において、RNAiを利用して効果的に遺伝子発現を抑制することが可能であることを報告した。そこで、ウイルスDMAの複製に重要な、lef1及びdnahelと相同な配列を持つ二本鎖RNAをBmN細胞において発現させたところ、ウイルスの増殖が抑制された。さらにトランスポゾン(piggyBac)を用いて、これらの二本鎖RNA発現遺伝子をカイコゲノム中に組み込んだBmN細胞においても、BmNPVの増殖が抑制されることを確認した。現在、これらの二本鎖RNA発現遺伝子を組み込んだ遺伝子組換えカイコの解析を進めている。
  • 中澤 裕, ポヌーベル ケ. エム., 古川 誠一, 田中 博光, 石橋 純, 山川 稔
    p. 6
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    昆虫の先天性免疫では抗菌タンパク質が重要な役割を果たしていることが知られている。現在までに数多くの抗菌タンパク質が単離され、その性質は詳細に研究されている。しかし、抗ウイルス活性をもつタンパク質については、その存在は示唆されているが、単離·精製はされていない。そこで今回我々は、カイコ消化液より抗ウイルス活性をもつタンパク質の単離を試みた。5齢2日目の大造の消化液を回収し、バキュロウイルスに対して抗ウイルス活性を示すタンパク質の精製を行った。ウイルスは、PlOプロモーターの下流にホタル-ルシフェラーゼを挿入したリコンビナントウイルスを用い、ルシフェラーゼ活性を指標に抗ウイルス活性をもつタンパク質の精製を行った。その結果、BmNPVに対して抗ウイルス活性をもつタンパク質を単離した。N末端側のアミノ酸配列29残基決定し、さらにSilkBaseを用いて検索したところ、相同性のあるESTクローンが見つかった。cDNAの塩基配列から推測されるアミノ酸配列の相同性検索を行った結果、ショウジョウバエとヒトのリパーゼにそれぞれ56%と21%の相同性を示した。この結果から単離した抗ウイルスタンパク質のリパーゼ活性を測定したところ、リパーゼ活性を有することを確認した。次にノーザンブロット法を用いて各組織における遺伝子発現を調べたところ、脂肪体·血球·マルピギー管·絹糸腺·気管での発現は認められず、中腸でのみ強く発現していた。更に、中腸を前·中·後部に分けて調べたところ前部と中部において発現しており、後部では発現していないことが明らかとなった。以上のことから、中腸特異的に発現しているカイコリパーゼがBmNPVに対して、抗ウイルス活性を有することが判明した。
  • 伊藤 雅信, 井上 朋美
    p. 7
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    カイコ(Bombyx mori)の2つのALP遺伝子の遺伝子座に関して、これまで矛盾する2つの結果が得られている。すなわち、交配実験からは比較的高い組み換え率(38.2%)が得られ、2遺伝子が同一染色体の左右に大きく離れて座乗することが示唆された。一方、青熟系統のゲノムライブラリーからは内部に2遺伝子の配列を含む組換え体ファージ(λBmsg1)が単離された。2遺伝子の実際の距離を決定するため、青熟ゲノムを鋳型として得られたPCR産物の構造を決定し、組換え体λBmsg1の介在配列と比較した。また、他のカイコ系統(日124、支124、Mus1、大巷上、新竜角、B7等)やカイコの近縁種(クワコ、エリサン、サクサン、テンサン、ウスタビガ)を用いて同様の解析を行った。その結果、(1)青熟ゲノムから得られたPCR産物の塩基配列はλBmsg1と同一だった。介在配列4,341塩基には、各種レトロトレンスポゾン(START, Hope, Bm1, Bm2)に対する相同配列が散在するが、完全なORFは検出されなかった。(2)ALP遺伝子はどのカイコ系統でも、同一(第III)染色体に近接して同じ転写方向で座乗しているが、介在配列の大きさには多型(4.3、7.0、8.0Kb)が見られた。(3)カイコに存在するALP遺伝子クラスターは、クワコのゲノム中にも同様に存在する可能性が示唆された。共通祖先遺伝子の重複は、カイコとクワコの種分化より前に起ったと考えられる。
  • 清水 亨一, 金森 保志, 伊藤 雅信
    p. 8
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    カイコ(Bombyx mori)ゲノムには、2つのアルカリ性フォスファターゼ遺伝子(BmmALPとBmsALP)が存在する。両遺伝子は塩基配列の相同性や、遺伝子座の近接などから、共通祖先遺伝子の重複によって生じたと推測される。一般に重複した遺伝子はその後の突然変異の蓄積により、(1)一方が機能を失い偽遺伝子化する、(2)一方が新しい機能を獲得する、あるいは(3)両者が機能分担する、のいずれかの運命をたどると考えられる。青熟系統を用いて、カイコALP遺伝子で重複後にどのような変化が生じたのか調査した。両遺伝子のエクソン-イントロン構造を比較すると、mALP遺伝子のイントロンが一つ少ないが、共通する3つのイントロンの相対的位置は両遺伝子でほぼ等しく、ヒトのALP遺伝子ともほぼ一致した。塩基配列の比較から分子系統樹を作製し、他種生物のALP遺伝子とカイコALP遺伝子の進化的類縁や、カイコ遺伝子重複の時期を推定した。mALP遺伝子の転写開始点·プロモーター領域の解析から、転写開始点付近にレトロトランスポゾンBm2配列と比較的高い相同性を示す配列が見つかった。転移性遺伝因子が宿主遺伝子の転写調節に関与する可能性を探った。
  • 何 寧佳, 上野 由宣, 藤井 博, 伴野 豊
    p. 9
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    カイコ幼虫体液中に存在する低分子のKunitz型キモトリプシンインヒビターはIct-H, Ict-A, Ict-B遺伝子および新たに見い出した遺伝子によって支配され, これらの遺伝子は第2連関群の23.7に座上することが明らかにしている. そこで, 各遺伝子のゲノム上の配列および転写調制領域の構造を明らかにするためにゲノム構造の解析を試みた. その結果, signal peptide領域を含む261bpのCI-13 cDNAおよび258bpのCI-1, 2とb1のcDNAをクローニングし, 塩基配列を明らかにした. この配列に基づきプライマーを合成し, 様々な系統を用いて, ゲノム解析を行ったところ, 長さの違う4つ断片(0.8kb, 1.0kb, 1.4kb, 1.8kb)を得った, 4つの断片はともに3つのエキソンと2つのイントロンから構成されていた. この中, 1.8kbと0.8kb断片はそれぞれCI-13をコードしていた. これまでCI-13遺伝子は1つであるといわれていたが, 今回の結果によってゲノム上に二箇所存在することを明らかにした. 1.8kb断片中のイントロン1と2の大きさは0.8kbのものよりも大きかった. 1.8kb断片中のイントロン1と2にはカイコのgypsy-Ty3-like retrotransposable elementsの一部の配列に95%の相同性をもつ配列が1ケ所づつ存在した. また, 1.4kbと1.0kbの断片中には既知の4つのcDNAと90%以上の相同性をもつ配列が認められた. それは同じファミリの未知遺伝子と思われる.
  • 河本 夏雄
    p. 10
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    カイコの幼虫皮膚が半透明になる油蚕(あぶらこ)突然変異の1つであるog遺伝子の同定について報告する。ogについてこれまでに報告されているのは(1)キサンチン脱水素酵素(XDH)活性の欠損が原因、(2)og突然変異体のXDH遺伝子は正常、(3)og遺伝子とXDH遺伝子とは遺伝子座が異なるということである。以上のことからog突然変異の原因は、XDH活性に必須のモリブデン補酵素(MoCo)が欠損しているためと推定できる。そこで、MoCoの生合成に関わる遺伝子群の単離を行なった。その結果、キイロショウジョウバエでMoCo生合成を行なう遺伝子の1つであるma-1遺伝子のホモログを、RT-PCRによってカイコ幼虫脂肪体から得た。この遺伝子とogとの関係を解析するために、交配実験を行なってPCR-RFLPを調べたところ、調査した297頭のF2突然変異個体すべてがog型のPCR-RFLPパターンを示し、ma-1ホモログとogとの間の組換え価が0となった。このことから、og遺伝子はma-1遺伝子のホモログであることが考えられる。この遺伝子のcDNAをog突然変異体から単離して塩基配列を解析したところ、アミノ酸置換が5カ所みつかった。
  • 田村 俊樹, 神田 俊男, 全 国興, 今村 守一, 桑原 伸夫
    p. 11
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    昨年度は注射装置を改良することにより、容易にカイコ卵へDNAを注射ができる方法について報告した。本年度はこの装置を利用した形質転換体の出現頻度を高める方法について詳しく調べるとともに眼での発現特性のあるプロモーターを利用したベクターの効果について検討した。その結果、形質転換カイコの作出効率が著しく向上したのでその概要について報告する。始原生殖細胞の発生予定領域は腹側の卵表付近であると考えられるが、DNAをこの部位に注射した場合に形質転換カイコの出現頻度が最も高くなった。この場合、キャピラリーの注射角度を水平近くまで低くして卵の真横から挿入することが重要で、このことによって正確に目的とする位置にDNAを注射できた。この方法で注射したカイコの形質転換体の出現頻度は、従来の方法に比較して5∼20倍高かった。また、新しいベクターと従来のアクチンプロモーターのベクターを用いて形質転換体を作成し、その発現特性の比較を行った。眼のプロモーターを持つベクターはホストとして白眼で白卵のw1-pnd系統を用いた場合、胚や幼虫の単眼、成虫の複眼で蛍光を発するため胚発育の6日目から成虫まで何時でも形質転換体を検出することが可能であった。従来のベクターでは検出は1齢2日目以後になるため、時期的にもスクリーニングに要する労力の点からも、このベクターを用いる方が有利であると考えられた。しかし、通常の系統では黒眼であるため、眼が形成され着色する直前である胚発育の6∼7日目頃にのみスクリーニングが可能であり、以後の検出は困難であった。従って、ホストに白眼でない系統を用いる場合は必ずしも優れているとはいえず、従来のベクターと使い分けることが必要と判断された。
  • 今村 守一, 中井 淳一, 井上 悟, 全 国興, 神田 俊男, 田村 俊樹
    p. 12
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    現在, 我々はカイコにおけるエンハンサートラップ系の構築を目指している. エンハンサートラップ法はキイロショウジョウバエで唯一実用化されており, 最近はP因子を用いたエンハンサートラップ法と酵母のGAL4/UASシステムを組み合わせた方法が主流となっている. この方法は, 複数のマーカーによる目的組織·細胞のラベリングが可能であり, さらに, マーカーによりラベルされた組織·細胞で任意の遺伝子を強制発現させることができるため, 遺伝子機能を解析する上で非常に有効である. そこで, カイコにもGAL4/UASシステムを組み合わせたエンハンサートラップ系を導入することにした. まず, カイコにおいてGAL4/UASシステムが機能するか否かを確かめるため, このシステムを用いてGFP遺伝子の組織特異的な発現を行った. 全身で発現するカイコactinA3プロモータおよび眼と神経系で特異的に発現する3XP3人工プロモータを各々上流に連結させたGAL4遺伝子を組み込んだpiggyBacベクターと, GAL4が結合するUAS(Upstream Activation Sequence)を上流に連結させたGFP遺伝子を組み込んだpiggyBacベクターを作成した. 次に, GAL4, UAS-GFP遺伝子を含むベクタープラスミドを同時にカイコ卵に注射し, 第一世代で緑色蛍光を発する個体のスクリーニングを行った. その結果, 各プロモータの組織特異性と一致した蛍光パターンを示す個体が得られた. 次に, GFP発現個体を戻し交配し, 得られた第二世代の蛍光を発しない個体群からGAL4遺伝子, GFP遺伝子を単独に1コピーもつ個体をgenomic PCRにより選抜し, 両者の間で交配を行った. 交配の結果, 第三世代で再び蛍光を発する個体が得られた. 以上のことから, カイコにおいてもGAL4/UASシステムが機能し得ることが証明され, 導入遺伝子の発現を制御するために利用できることが示された.
  • 永重 真, 櫻井 真紀子, 佐野 義孝, 松本 継男
    p. 13
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    バキュロウイルスを用いた一過性の物質生産を、永続的な生産系とするために、非許容温度(33℃)で出芽型ウイルス(BV)産生が抑制されるAutographa californica nucleopolyhedrovirus(AcMNPV)温度感受性変異株(tsBD1)と高温馴化したSf9-ht細胞を用いて、培養温度の移行によるウイルス増殖と細胞増殖の平衡化から検討した。培養温度の移行時期をtsBD1の増殖で調べたところ、許容温度(25℃)から33℃では、BV産生に少なくとも25℃で1日以上要した。また、33℃から25℃では、33℃の培養で4日以上保持すると25℃への移行後にBV産生が見られなかった。これらの事実に基づき、連続培養を試みた。tsBD1をMOI0.01およびMOI0.001で接種し、33℃で3日、25℃で2日という培養温度の移行調整を行ったところ、tsBD1接種後10日経過してもtsBD1を再接種することなく、継代により多角体産生量に変動はあるものの、接種後15日まで継続的な感染が認められた。培養温度を移行させる本実験により、細胞致死に伴う一過性の感染に比べ培養期間が3倍に延長できた。この連続培養系のさらなる延長にはMOIが大きな要因の1つと考えられた。
  • 滝澤 和也, 櫻井 智暁, 中垣 雅雄, 梶浦 善太, 塩見 邦博
    p. 14
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    宿主となる昆虫に異なる2種類のウイルスが感染した場合、昆虫体内においてウイルス間で何らかの相互作用が起きることが知られている。一般的には干渉、独立、共働のいずれかを示すとされ、個体、及び細胞レベルでその特徴を観察することができる。演者らは以前の報告により、家蚕濃核病I型ウイルス(BmDNV-1)、及び家蚕濃核病II型ウイルス(BmDNV-2)に感染した蚕(B. mori)幼虫中腸組織において組織全体、あるいは細胞レベルで双方のウイルスに特異的な感染様相が存在することを示した。今回演者らは各種濃度に調整したウイルス接種液を用い、2種の家蚕濃核病が互いの感染様相に影響を及ぼすかを、QC-PCRによるウイルスDNAの定量とISHによるウイルス増殖部位の同定により調査した。同濃度のウイルス液を接種した幼虫では個体により感染に若干の差は見られたが、I型とII型の特異的な感染様相自体には変化は認められなかった。しかしながら、多くの個体でI型に比べてII型の感染が弱く感じられ、特に中腸前部での増殖はかなり少なかった。このことはI型感染によりII型の増殖がある程度抑制されている可能性を示した。現在、さらに蛍光標識抗体を用いてFISHにより細胞レベルでの感染様相を観察するとともに、ウイルスDNAの定量結果からさらに詳細な相互作用の検証を行っている。
  • 永田 昌男
    p. 15
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    カイコの核多角体病ウイルス(NPV)は還元剤によって不活化された。すなわち、培養細胞で増殖させた遊離ウイルスを5-20mMの還元型グルタチオンと混合して、1日放置後にTCID50でウイルス活性を測定すると、ウイルス活性は1/1,000から1/10,000に低下した。1-4mMではグルタチオン濃度依存的にウイルスは不活化され、4mMの濃度下で作用時間を調べると、8時間まで活性低下がみられ、そこで一定値に達した。Autographa californicaならびにTrichoplusia niのNPVについて作用を調べた結果、これらのNPVもカイコNPVと同様に不活化された。作用は共存物によって影響され、蒸留水に懸濁したウイルスと比べ、培養液中のウイルスは不活化されにくかった。他の還元剤として、Dithiothreitolやアスコルビン酸について調査した結果、これらの物質にも不活化作用が認められた。安全性が高く、比較的安価なアスコルビン酸にNPV不活化作用があることから、応用面を検討した。まず、養蚕における核多角体病の防除を想定し、人工飼料上に5%アスコルビン酸を滴下し、2齢蚕を用い、NPV多角体を病原として感染実験を行ったが、防除効果は認められなかった。次に、組換ウイルスによるペプチド生産後のウイルス不活化剤としての利用を想定し、NPV感染蚕血液を1%アスコルビン酸で1日処理し効果を調べた。その結果、血液中のウイルスは少なくとも1/10,000以下に不活化され、利用可能と考察された。
  • 小林 則夫, 中西 宏, 高妻 和哉, 濱野 國勝
    p. 16
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    組換えNPVを対象として超微粒子ホルマリン噴霧消毒を実施した場合に、不活化に有効な処理時間及びホルマリンガス濃度を明らかにした。また、消毒が完了したことを確認方法として組換えNPVのPCRによる検出を試みた。培養細胞上清中の組換えNPVをシャーレ底面に乾燥させたものウイルス試料とし、デシケーター中でホルマリンガスに曝露した。処理後のウイルスをカイコに注射して発病するかどうかを調べ、不活化効果のある濃度と時間を調べたところ、300ppm1時間では感染性が残ったが、20∼150ppm2時間では20ppmでも感染性はなくなった。次に、PCRで検出を行うためのプライマーを、組換え部分を含むポリヘドリン遺伝子塩基配列、および組換え部位から離れたie-1遺伝子塩基配列を参考に作成した。ポリヘドリンから作成したプライマーとie-1から作成したプライマーの計4種を混合し、94℃1分→58℃1分→72℃2分45回反復の条件でPCRを行うと、野生型NPVを鋳型DNAとした場合には2本、組換えNPVでは1本のバンドが現れ、野生型と組換型を区別して検出することができた。
  • 岩堀 聡子, 小林 迪弘, 池田 素子
    p. 17
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    これまでに AcMNPV PCNAのN末端側とC末端側をそれぞれ欠損した組換えウイルス(AcpcnaΔ12、AcpcnaΔ56)を作出し、その増殖過程は野生型AcMNPVと比較して差がないことを示した。今回我々は両組換えウイルス感染が、宿主細胞のPCNAタンパク質(Sf9 PCNA)の発現及び細胞内局在性に及ぼす影響を調べた。野生型AcMNPV感染と同様に、AcpcnaΔ12、AcpcnaΔ56感染によってSf9 pcna遺伝子の転写物は感染初期から徐々に減少し、感染後48時間では検出されなかった。また、Sf9 PCNAタンパク質の蓄積量も感染後24時間以降減少した。しかしながらその細胞内局在性を調べたところ、組換えウイルスの感染後8時間以降においてSf9 PCNAタンパク質の核内での蓄積量が、野生型AcMNPV感染細胞や偽感染細胞の核内での蓄積量よりも著しく多いことが明らかになった。今後は免疫細胞化学の手法を用いて、AcpcnaΔ12、AcpcnaΔ56感染細胞の核内でSf9 PCNAタンパク質がどのように局在しているのかについて調査する予定である。
  • 池田 素子, 小林 迪弘
    p. 18
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    アメリカシロヒトリ核多角体病ウイルス(HycuNPV)のゲノムには, Hciap-1, -2, -3遺伝子が存在する. これまでに, 各遺伝子を発現ベクターに挿入してSf9細胞で発現させ, 発現産物のアポトーシスに対する阻害活性を調査し, Hciap-3遺伝子の発現産物(HcIAP-3)がアクチノマイシンDによって誘導されるアポトーシスに対して阻害活性のあることを示した. 今回は, Autographa californica MNPVのアポトーシス阻害遺伝子(p35遺伝子)を欠損したウイルス, vΔp35を用い, ウイルス感染によって誘導されるアポトーシスに対する阻害活性を調査した. 各Hciap遺伝子を含むプラスミドとvΔp35のゲノムDNAをSf9細胞にトランスフェクション法により導入し, アポトーシスの誘導ならびに多角体の形成を調査した. vΔp35のゲノムDNAのみを導入した結果, 導入後12時間までにアポトーシスが誘導される細胞が観察されたが, 正常な形態を示す細胞も存在した. 多角体の形成は, 導入後72時間においても認められなかった. 一方, Hciap-3遺伝子をvΔp35のゲノムDNAと同時に導入することによって, アポトーシスが抑制され, 72時間後には多角体を含む細胞が観察された. 以上の結果から, HcIAP-3はウイルス感染によって誘導されるアポトーシスに対して阻害活性のあることが明らかとなった.
  • 大崎 有紗, 日下部 宜宏, 青木 智佐, 河口 豊, 古賀 克己
    p. 19
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    細胞内では、紫外線·電離放射線·化学物質などの外的ストレスや突然変異原·活性酸素などの内的ストレスによりDNA二重鎖切断(DSB)が恒常的に生じている。DSBはゲノムを不安定にし、細胞は多くの重篤な疾患を引き起こし、やがて死に至る。DSBの修復機構としては一般に相同組み換え(HR)と非相同末端結合(NHEJ)が知られている。HRは互いに相同な二つのDNA間でDNAが組換わるという機構で、酵母など単細胞生物で多用されている。一方、NHEJは切断されたDNA末端同士を直接再結合させるという機構で、ヒトなど多細胞生物で多用されている。しかし、昆虫細胞においてどちらの機構が多用されているかはまだ明らかではない。本研究ではカイコの培養細胞抽出液を用いてNHEJ活性測定系の確立を試みた。細胞抽出液に制限酵素で切断したプラスミドを加えて16℃で一晩反応後、PCRで増幅し解析を行った結果、カイコの培養細胞抽出液中にNHEJ活性が認められた。反応に用いる基質に末端の構造が異なるDNAを用いた場合NHEJ活性は認められたが、NHEJ効率は末端の構造が同じDNAを基質に用いた場合のそれと比べて低いということが明らかとなった。また、この反応はEDTA、ATP-[γ-S]の添加により阻害されたことから、2価の金属イオンを必要とし、ヌクレオチド三リン酸の加水分解により触媒されていると考えられた。現在、in vitro系におけるNHEJ活性の条件検討をさらに細かく行うとともに、in vivo系におけるNHEJ活性測定系の確立を進めている。
  • 澤田 博司, 加藤 智美, 山本 貴之, 間瀬 啓介, 山本 俊雄, 中越 元子
    p. 20
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    我々は、プテリジン系色素形成の鍵酵素であるGTP-シクロヒドロラーゼI(GTP-CH I)遺伝子に着目し、その遺伝子の発現解析から、昆虫の体色発現調節機構の分子レベルでの解明に取り組んできた。昆虫におけるGTP-CH Iの一次構造はショウジョウバエでのみ報告されているが、最近、我々は、生物種間で非常に良く保存された約94アミノ酸からなる機能ドメインをもとに設計したdegenerateプライマーを用いて、RT-PCRを行った結果、北アメリカ原産タテハモドキ(Precis coenia)のGTP-CH I遺伝子断片(282bp)を得た。更に、蛹の翅への20-ヒドロキシエクジソン(20E)の投与により、GTP-CH I mRNAの発現とその酵素活性がともに上昇することが明らかになり、GTP-CH I遺伝子の転写がエクジステロイドにより誘導されている可能性が示唆された。同様にして、今回、カイコのGTP-CH I遺伝子断片(275bp)の配列を決定し、これをプローブに用いて、4齢幼虫から羽化直後の成虫まで、1日おきに15段階の各ステージの皮膚を採取し、ノーザンブロット解析を行った。その結果、GTP-CH I遺伝子は昆虫の脱皮·変態と密接な関わりを持って発現していることが明らかになり、更に、その発現はエクジステロイド濃度の変動と関連している可能性が示唆された。カイコ初期5齢幼虫のエクジステロイド濃度は非常に低いことが知られているので、この時期のカイコへの20Eの投与が皮膚中のGTP-CH I mRNAの発現量にどのような影響をもたらすのかを検討している。
  • 小野田 真央, 東 政明, 白井 孝治, 木口 憲爾
    p. 21
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    カイコ5齢幼虫の前部絹糸腺(ASG)および中部絹糸腺(MSG)後区においてH+V-ATPaseは腺腔側原形質膜に分布する。吐糸期にはASGのH+V-ATPaseが消失することから吐糸開始に伴って腺腔内の液状絹のゾル=ゲル変換にこの原形質膜H+V-ATPaseが関与していると推定した。このような現象はカイコ絹糸腺のH+V-ATPaseに固有の性質であるのかどうか, エリサン絹糸腺におけるH+V-ATPaseの分布を免疫組織化学的に観察した。さらに繭形成を行わないエビガラスズメ幼虫の下唇腺におけるH+V-ATPaseについても観察を試みた。エリサンおよびエビガラスズメは人工飼料で飼育し, 盛食期の5齢幼虫から絹糸腺および下唇腺をそれぞれ解剖摘出した。摘出した試料は常法に従い, H+V-ATPaseに対する特異抗体を用いて免疫組織化学を行った。エリサンのASG前半部においてH+V-ATPaseの反応は細胞質領域全体に強く検出され, ASG後半部では腺腔側の表層に原形質膜H+V-ATPaseの存在を確認した。エリサンのMSGでも腺腔側表層に分布していたが, 後部絹糸腺(PSG)ではほとんど染色されなかった。一方, エビガラスズメ前部下唇腺ではエリサンやカイコのASGと異なり, 細胞質全体に強いH+V-ATPaseの反応を検出し, EndomembraneタイプのH+V-ATPaseの存在を確認したが, 後部下唇腺ではその反応は弱かった。エビガラスズメではカイコやエリサンとは異なり腺腔側原形質膜のH+V-ATPaseの存在について否定的であったことから, 腺腔内に液状絹を貯留する繭糸昆虫における原形質膜H+V-ATPaseの機能は, 腺腔内の液状絹の存在と関係していると考えられた。
  • 奥村 真由子, 長岡 純治
    p. 22
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    カイコの絹糸腺は最終齢になると多量の絹タンパク質を生合成し肥大化するが, 吐糸終了に伴い崩壊·消失する. この一連の変化を分子レベルで解明する為, 後部絹糸腺の膜タンパク質を多く含むTriton X-100不可溶性タンパク質に7M Urea, 2M Thiourea, 4%CHAPSと0.5%Deoxycholic acidからなるLysis bufferを加え可溶化した試料を, 二次元電気泳動法により分離し, その経時的変化について調査した. 4齢期においてはスポットの数, 濃さに大きな変化は認められなかった. しかし, 5齢起蚕になると4齢期に比べ, いくつかのスポットの増減が見られた. 起蚕から4日までは各スポットの濃さは多少異なってはいたが, 大きな変化は認められなかった. 6日(吐糸開始2日前)では顕著に数種のスポットの消失が認められ, さらに, 10日(蛹化3日前)以降, 全スポット数の急激な減少と新たなスポットの出現が見られた. 以上の変化に注目すると最終齢の後部絹糸腺は, その発生段階を大きく3つに分けることができる. 現在, 顕著な変化が認められたタンパク質の同定を行っている.
  • レモン幼虫のカルボニル還元酵素とグルタチオン-S-転移酵素との関連
    田端 真由子, 飯野 〓彦, 間瀬 啓介, 山本 俊雄, 滝川 新一郎, 澤田 博司
    p. 23
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    テトラヒドロビオプテリン(BH4)は、神経伝達物質であるモノアミン合成の際の芳香族アミノ酸の水酸化反応や、NO合成の際に必要なNO合成酵素2量体形成に必須の補酵素として機能しているため、BH4欠損症は人に重度の神経障害等をもたらす。BH4はGTPより3種の酵素により合成されるが、合成に必須の酵素であるセピアプテリン還元酵素(SPR)の欠損患者だけが、いままで一人も見つかっておらず、その理由が不明であった。ところが、最近、我々によりレモン幼虫の脂肪体に存在する2種のカルボニル還元酵素(CR I, CR II)がSPRの代わりになってBH4合成を行う新たな合成系が明らかにされ、その理由の解明に大きな可能性が示唆された。我々は前回、前々回の大会において、両酵素のクローニングのためのアミノ酸シークエンス解析を報告した。今回、我々は、CR II遺伝子解析の有用なプローブ作製のため、より長いアミノ酸シークエンス解析に成功した。解析結果のホモロジー検索を行ったところ、CR IIはGSTと非常に高い相同が見られた。また、ヒトCRとGSTの関連を示唆する報告もあるため、カイコのCR IIとGSTの関連を検討したので報告する。
  • 宋 紅生, 酒井 雅人, 安 嬰, 鈴木 幸一
    p. 24
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    2化性カイコの蛹脳から単離された中枢神経系タンパク質(Bombyrin)の全アミノ酸配列が決定されている(Sakai et al., 2001)。本研究では, Bombyrinの全アミノ酸配列によるC末端の15アミノ酸残基のペプチト(CKFTISSVITEHGKH)を抗原として, 作製した抗体を用いて, Bombyrinの発現と局在性を検討した。カイコの2化性大造を用いて, 蛹のいくつかの組織器官からタンパク質画分を62.5mM Tris-HCl bufferで抽出し, Western blottingを行った。また, Bombyrin抗体, 他のマーカ抗体及ビオチン化レクチンを使用し, 中枢神経系におけるパラフィン切片の(免疫)組織化学を行った。Western blottingの結果から, Bombyrinはカイコの中枢神経系のみに存在し, 免疫組織の結果では, 胚子ステージの剛毛発生期から中枢神経系で発現していることを明らかにした。また, 幼虫, 蛹及び成虫の脳と各神経節には, ニューロン層とニューロンバイル細胞に陽性反応が強かったが, ニューロン細胞内は染色されなかった。レクチンの染色と比較すると, Bombyrinは中枢神経系に関する細胞外マトリックスであることを示唆している。以上のことから, Bombyrinはカイコ中枢神経系における環境情報の受容からその機能発現に関与することが考えられる。
  • 黄 元〓, 吉村 哲郎, 小林 淳
    p. 25
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    我々が開発したサクサン核多角体病ウイルス(Antheraea pernyi nucleopolyhedrovirus; AnpeNPV)を用いる新規バキュロウイルスベクター系では、サクサン由来の培養細胞(NISES-AnPe-428; AnPe)のみならず、長期冷蔵保存可能なサクサン休眠蛹を用いたin vivo組換えタンパク質生産が可能である。大腸菌のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)の発現を指標としたAcNPV及びBmNPVベクター系との比較では、AnPe細胞はSf9細胞と同等、サクサン休眠蛹はカイコ幼虫と同等もしくは上回る生産効率を示した。しかしながら、休眠蛹では比較的長期間かけてタンパク質が生産されるため、分解産物も著しく多くなることが判明した。そこで、AnpeNPVベクター系のさらなる改良を目的として、約130.2kbpのAnpeNPVゲノムDNAの物理的地図を作成し、他のNPVとの比較ゲノム解析により組換えタンパク質の分解ならびに蛹の液状化を促進するカテプシン遺伝子とキチナーゼ遺伝子のホモログを同定し、両遺伝子の配列決定を行った。そして、カテプシン遺伝子単独あるいはカテプシン及びキチナーゼ遺伝子両方をGFP遺伝子と置換した組換えAnpeNPVを作製し、それぞれポリヘドリンプロモーターの制御下で大腸菌のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を発現させたところ、いずれのウイルスでも感染培養細胞及び蛹においてタンパク質の生産効率が落ちず、分解が抑制され、蛹組織の液状化も阻止されることが判明した。
  • 西堂(坂中) 寿子, 石橋 純, 百渓 英一, 山川 稔
    p. 26
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    生体内に侵入した細菌は自己の生息に不利な環境下では、壊死組織あるいは縫合糸等の異物などに付着し、粘液状の多糖類であるグリコカリックスを産生し、それに包まれて分裂、増殖を続け、付着物の表面を覆う。この細菌の塊は膜(フィルム)のように見えることからバイオフィルムと呼ばれる。バイオフィルムは抗菌剤等の除菌に対して抵抗性を持つことから、医療上の問題となっている。一方、抗菌性タンパク質は抗菌スペクトルが広く、薬剤耐性病原細菌を殺すことができるため新しい抗菌剤としての利用が期待されている。我々はカブトムシ体液から抗菌性タンパク質ディフェンシンを分離精製し、その活性中心をもとに改変を行い、さらに、抗菌スペクトルが広く、活性の強い9merのペプチドを合成した。この改変ペプチドの医薬分野への応用として、絹縫合糸に改変ペプチドを付着させ、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染マウスの皮下に糸を縫いつけ、バイオフィルム形成阻止効果を検討した。その結果、この改変ペプチド付着縫合糸は、マウス皮下でのバイオフィルム形成阻止に効果があることが明かとなった。
  • 古川 誠一, 田中 博光, 柿嶌 眞, 山川 稔
    p. 27
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    昆虫の抗菌性ペプチド遺伝子は、細菌などの刺激によって一過的に発現誘導が起こることが知られている。カイコでもこれまでに数種類の抗菌性ペプチド遺伝子がクローニングされ、その発現様式が調べられている。これらの遺伝子発現の誘導機構を明らかにするために、カイコESTデータベースより免疫系の細胞内シグナル伝達に関わる因子の探索を行った結果、ショウジョウバエにおいて免疫系に関わることが知られ、IκBファミリータンパク質に分類されているCactusのホモログをコードしていると思われるcDNAクローンが見つかった。このcDNAクローンを調べた結果、コードされたタンパク質は326アミノ酸残基からなり、そのアミノ酸配列とショウジョウバエのCactusとでは25%の相同性があった。また、このカイコCactus(BmCactus)にも他のIκBファミリータンパク質と同様にアンキリンリピート構造が存在していた。このBmCactus遺伝子の発現様式を調べた結果、常在性であるがLPSによってその発現量が増加することが分かった。またその発現量のピークは抗菌性ペプチド遺伝子発現のピークよりも早い時間であった。次にBmCactusがカイコの免疫系におけるシグナル伝達に関与しているかを培養細胞系を用いて調べた。アタシンやモリシンなどの抗菌性ペプチドの遺伝子転写活性はカイコRelタンパク質(BmRel)の過剰発現によって上昇したが、BmRelとBmCactusを共発現させるとその上昇が抑えられた。この実験結果より、BmCactusは抗菌性ペプチド遺伝子の転写活性を抑制する因子として機能していることが示唆された。
  • 田中 博光, 古川 誠一, 中澤 裕, 石橋 純, 山川 稔
    p. 28
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    昆虫の抗菌性タンパク質遺伝子の発現誘導には5’上流域に存在するκB配列が重要な役割を果たしていることが知られているが、κB配列近傍に存在するGATA配列も同様に抗菌性タンパク質遺伝子の発現に重要な領域であることがショウジョウバエで明らかとなっており、この配列に結合するGATA因子としてserpentが既にクローニングされている。カイコからはGATA因子としてIatrouらによりBmGATAβ1, 2, 3がクローニングされており、これらは一つの遺伝子より選択的スプライシングにより産生され、コリオン遺伝子5’上流域のGATA配列を認識し、転写を活性化させることが推測されている。私たちはBmGATAβタンパク質がカイコ抗菌タンパク質遺伝子の転写活性化に関与するかどうかを検討した。3種類のBmGATAβcDNAを発現ベクターに組み込んだプラスミド及び、アタシン、セクロピンB、レボシン3、レボシン4、モリシン2の5種類のカイコ抗菌タンパク質遺伝子5’上流域にルシフェラーゼ遺伝子を連結させたプラスミドをショウジョウバエ血球由来の培養細胞にコトランスフェクションしたところ、BmGATAβ3によりモリシン遺伝子の転写活性化が約5倍になることが明らかとなった。また、アタシン遺伝子においてはBmGATAβ1および3により約2倍の転写活性化がみられた。他の組み合わせでは転写の活性化がみられなかったことより、BmGATAβタンパク質は選択的にカイコ抗菌性タンパク質遺伝子を活性化することが明らかとなった。次に、BmGATAβ遺伝子が抗菌性タンパク質遺伝子の発現の誘導がみられる脂肪体に発現しているかどうかをRT-PCRで調べた結果、1, 2, 3すべてにおいて転写産物を確認することができた。この結果はBmGATAβタンパク質が脂肪体において抗菌性タンパク質の転写誘導に関与していることを示唆している。
  • 勾坂 晶, 古川 誠一, 田中 博光, 山川 稔
    p. 29
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    カブトムシ(Allomyrina dichotoma)幼虫に大腸菌を接種すると脂肪体や血球で数種の抗菌性タンパク質が合成され体液中に分泌される。鞘翅目のコレオプテリシンファミリーに属する抗菌性タンパク質の一つとして同定されたコレオプテリシンAの5’上流転写制御領域の塩基配列を解析した結果、NF-κB結合様配列、R1、GATAモチーフ、NF-IL6モチーフ、CATT(A/T)モチーフが存在した。このプロモーター領域とホタルのルシフェラーゼを連結させたレポーターベクターを作製し、カイコのDZ細胞にトランスフェクションしてレポーター活性を測定したところ、NF-κB結合様配列とR1が転写活性化に必要なモチーフであり特にNF-κB結合様配列がシスエレメントとして重要であることが明らかになった。そしてカブトムシの核抽出液中にはNF-κB結合様配列と特異的に結合するタンパク質が存在し、免疫誘導で核内に移行したことから転写因子である可能性が示唆された。このNF-κB結合様配列に結合する転写因子を同定するために、既知のRelファミリータンパク質のRHDからdegenerate primerを設計しcDNAクローニングを行った結果、カブトムシにはN末端が異なる2種類のRelタンパク質が存在した。このRelA及びRelBをコレオプテリシンAのプロモーター領域を組み込んだレポーターベクターと共発現させた時、有意に転写活性が上昇しその認識配列はNF-κB結合様配列とR1であることが明らかとなった。
  • 前川 憲一, 黄 元〓, 小林 淳, 吉村 哲郎
    p. 30
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    サクサン核多角体病ウイルス(AnpeNPV)とAcNPVを用いたバキュロウイルス遺伝子発現ベクター系との間に互換性を付与することを目的として、宿主範囲の決定に関与する可能性があるAnpeNPVのDNAヘリカーゼ遺伝子をAcNPVに導入し、宿主細胞への影響と外来遺伝子発現に及ぼす影響を検討した。AnpeNPVのDNAヘリカーゼ遺伝子(プロモーター+翻訳領域)とマーカー遺伝子(p10プロモーター+アルカリホスファターゼ cDNA)を組み込んだ組換えAcNPV(AcAPhel)とマーカー遺伝子のみを組み込んだ組換えAcNPV(AcAP)を作製し、サクサン細胞(AnPe)、Sf9細胞及びHigh5細胞にMOI=5あるいは0.1で感染させ、感染細胞上清中のアルカリホスファターゼ活性を測定した。その結果、少なくともMOI=5では、AcAPhelとAcAPのいずれの感染細胞もすべて明瞭な感染症状を示し、死滅したが、BVの生産やアルカリホスファターゼの活性に関しては、DNAヘリカーゼの有無にかかわらずウィルス感染Sf9及びHigh5細胞に比べてAnPe細胞は1/10以下であった。この結果から、AnpeNPVのDNAヘリカーゼ遺伝子導入はAcNPVのAnPe細胞における生産的な感染やvery late geneの発現を顕著に促進しないことが判明したが、Sf9及びHigh5細胞における外来遺伝子発現を有意に高めるという予想外の効果が確認された。その理由を探るために、現在、キメラDNAヘリカーゼ遺伝子(AcNPVのプロモーターとN末端領域+AnpeNPVのC末端領域)とマーカー遺伝子を組み込んだ組換えAcNPV(AcAPhelrec)を作製し、宿主細胞および外来遺伝子発現に及ぼす影響を検討している。
  • 桑原 伸夫, 森 久, 藤枝 貴和, 全 国興, 神田 俊男, 今村 守一, 山川 稔, 石橋 純, 田村 俊樹
    p. 31
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    安価な外国産の繭や生糸に対抗し、養蚕業の維持発展と活性化を図るには、単に外国産との差別化だけでなく、新たな分野で生糸の消費拡大をもたらす画期的な蚕品種の育成が急務となっている。蚕への外来遺伝子の導入法として、休眠性を一時的に変化させた非休眠卵を用いることによって、遺伝子の導入が可能であることを前大会で報告した。この技術を用いれば、実用形質の高いそのまま利用できる蚕品種に直接有用な外来遺伝子を導入することができる。そのため、演者らは抗菌性生糸を生産する新蚕品種の作出を目的に、実用蚕品種の原種へディフェンシン遺伝子の導入を試みた。セリシン遺伝子の上流をプロモーターとするディフェンシン遺伝子を緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子をマーカーとするベクターに挿入し、このプラスミドと転移酵素を発現させる機能のあるヘルパーを同時に非休眠化させた「200」の卵に注射し、ふ化した幼虫を飼育して次世代の幼虫を調べた。実体蛍光顕微鏡による観察の結果、マーカーとしたGFPによる蛍光を発する個体がいくつかの蛾区から出現した。この蛍光を発する個体からDNAを抽出し、サザンにより調べたところ導入遺伝子の存在が確認された。しかしながら、ノーザンにおいては非常に薄いバンドしか検出されず、ウェスタンブロッティングでもディフェンシンを同定することは出来なかった。このため、今後はプロモーターを改良した新しいベクターを構築し、この遺伝子を導入した形質転換蚕を作出する予定である。
  • 井上 聡, 富田 正浩, 神田 俊男, 今村 守一, 全 国興, 日野 里香, 吉里 勝利, 水野 重樹, 田村 俊樹
    p. 32
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    我々はトランスポゾンを利用した形質転換カイコの作出系を開発の成功し、現在その利用技術の開発に取り組んでいる。本研究ではその一環として絹フィブロインの後部絹糸腺細胞内輸送機構を解析することを研究目的とした。絹フィブロインの1成分であるL鎖のプロモーターとL鎖とGFPの融合遺伝子を連結したインサートDNAを眼でマーカー遺伝子(DsRed2)が発現するトランスポゾンベクター(piggyBac)中に挿入し、これをトランスポゼースを発現させる機能のあるヘルパーベクターと共に絹フィブロイン分泌正常品種(w1/pnd)の卵にマイクロインジェクションした。孵化したカイコを飼育、交配し、G1の6∼7日胚でマーカー遺伝子の発現をもとに形質転換体をスクリーニングした。得られた形質転換体を解析したところ、後部絹糸腺細胞と絹糸腺内腔、さらに繭にGFPの蛍光が観察された。また、H鎖、L鎖とGFPに対する特異抗体を用いたWestern blottingを行ったところ、後部絹糸腺内腔に分泌されたフィブロイン及び繭の可溶性タンパク質中にL鎖-GFP融合タンパク質は内在性L鎖の数%含まれていること、融合タンパク質も内在性L鎖と同様にH鎖とS-S結合をして分泌されていることが示された。L鎖がH鎖とS-S結合することはフィブロインの効率的な細胞内輸送·分泌に不可欠であるため、融合タンパク質の分泌量が相対的に少ないのは融合タンパク質の方が内在性L鎖よりもH鎖との結合能が低いことに起因しているものと推定された。現在、L鎖の変異によりフィブロインの分泌量が1%以下に減少した裸蛹変異種(Nd-sD)に形質転換させることでフィブロイン分泌能が回復した形質転換カイコの作出を試みている。
  • 鈴木 雅京, 船隈 俊介, 神田 俊男, 田村 俊樹, 嶋田 透
    p. 33
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、先の蚕糸学会関東支部第52回学術講演会において発表したとおり、雌型Bmdsxを強制発現するトランスジェニックカイコ(以後Bmdsxトランスジェニックと呼ぶ)の作出に成功した。その後これらのトランスジェニックカイコを用い、Bmdsx遺伝子の機能を明らかにするためにいくつかの実験を行ったので報告する。BmdsxトランスジェニックG1個体を正常個体と交配して得られたG2個体のうちGFP陽性個体を選抜飼育し、それらの絹糸腺から抽出したゲノムDNAを用いたゲノムサザン解析を行った結果、transgeneはG1個体からG2個体へと遺伝していることがわかった。これらG2個体の脂肪体から抽出したpoly(A)+RNAを用いてノーザン解析を行った結果、transgene由来の雌型Bmdsx mRNAが転写されていることが確認された。脂肪体における雌型Bmdsxのエクトピックな発現が、雌特異的に合成されているビテロジェニンの遺伝子発現に与える影響について調べるため、BmdsxトランスジェニックG2雄の脂肪体におけるビテロジェニン遺伝子の発現をノーザンブロッティング法により解析した。その結果、雌でしか発現しないはずのビテロジェニン遺伝子がBmdsxトランスジェニック雄において発現していることが明らかとなった。そこで次に、BmDSXタンパク質がビテロジェニン遺伝子のプロモーター領域に結合するか否かをゲルシフトアッセイにより確認したところ、BmDSXはビテロジェニン遺伝子の転写開始部位の上流-89から-95の配列(ACATTGT)に特異的に結合することがわかった。このように、Bmdsx遺伝子は脂肪体におけるビテロジェニン遺伝子の雌特異的な発現を制御する機能をもつことから、カイコの性決定遺伝子の1つであると予想される。
  • 船隈 俊介, 鈴木 雅京, 神田 俊男, 田村 俊樹, 嶋田 透
    p. 34
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    Bmdsx遺伝子の機能を明らかにするために、私たちは雌型Bmdsxを強制発現するトランスジェニックカイコ(以後Bmdsxトランスジェニックと呼ぶ)を作出した。このトランスジェニック系統では、確かにトランスジーンが発現していること、および雄に本来ないはずのビテロジェニンmRNAが発現することが判明している(鈴木ら、本大会)。そこで、カイコの脂肪体が合成するもう一つの雌特異的タンパク質SP1の遺伝子についても解析したところ、Bmdsxトランスジェニック雄の脂肪体では確かにSP1 mRNAが対照の正常雄よりも多く発現していた。続いて、BmDSXタンパク質がSP1遺伝子のプロモーター領域に結合するか否かをゲルシフトアッセイにより解析したところ、転写開始部位の上流810bpまでのDNA断片にBmDSXは結合しなかった。従って、Bmdsxは何らかの因子を介して間接的にSP1遺伝子の雌特異的な転写を誘導している可能性がある。さらに、Bmdsxの強制発現が生殖に与える影響を調査した。Bmdsxトランスジェニック雄と正常雌の交尾成立までの時間を計測した結果、正常個体同士の交尾に比べて明らかな遅延が観察された。つまり、雌型Bmdsxは雄の交尾行動を阻害するらしい。また、Bmdsxトランスジェニック雌に正常雄を交配して得られた産下卵の着色卵歩合および孵化歩合は、正常個体同士の交配によって得られた産下卵の着色卵歩合、孵化歩合に比べて低下し、Bmdsxトランスジェニック雌個体の産下する卵に何らかの異常がある可能性が示された。以上より、Bmdsxはビテロジェニン遺伝子の雌特異的発現のみならず、SP1遺伝子の雌特異的な発現、ならびに成虫の妊性にも関与していることが明らかとなった。これらの事実は、Bmdsxがカイコの性決定遺伝子であることを強く支持している。
  • 外城 寿哉, 大林 富美, 鈴木 雅京, 嶋田 透
    p. 35
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    Bmdsxは、ショウジョウバエのdoublesexに相同なカイコの性決定遺伝子である。既に発表した通り、Bmdsxはカイコの幼虫、蛹、成虫のほとんどすべての組織で性特異的なmRNAを発現している。Bmdsxの性特異的発現は胚子発育まで遡ることができ、胚子のBmdsx mRNAに雌雄差が見いだされるのは、産下後90時間以降である。今回、我々はカイコ胚子におけるBmdsxの発現を組織学的に解析し、胚子発育と性分化の関係について考察した。蚕品種は東京大学で継代されている限性黒卵を用いた。観察には、産下後12時間から168時間までの卵を用いた。産下後37時間以降は、卵色により雌雄別々にサンプリングした。卵殻を除去した産卵を固定·脱水し、パラフィン切片を作成した。in situハイブリダイゼーション法によりBmdsx mRNAの発現部位を観察したところ、胚子および漿膜に比較的強いシグナルが認められた。胚子では、部位による発現量の大きな違いは認められず、胚子全体からシグナルが検出された。また、胚子におけるBmdsx mRNAの発現パターンには、明確な雌雄差が認められなかった。さらに、雌型mRNAに特異的なプローブを用いて産下後96時間の雄胚子に反応させたところ、陽性シグナルは観察されなかった。このことから、胚子自身におけるBmdsxの性特異的スプライシングは、産下後96時間にすでに実現していると推測される。一方、産下後96時間までは胚子の発育ステージの進行に伴って、Bmdsx mRNAのシグナルが強くなる傾向が認められた。免疫組織化学により胚子におけるBmDSXタンパク質を検出したところ、産下後96時間を経過して初めて胚子におけるBmDSXタンパク質のシグナルが認められた。このことから、カイコ胚子における性分化は、産下後96時間以降に生じることが予想された。
  • 高橋 道佳, 小池 淑子, 味村 正博, 嶋田 透, 三田 和英
    p. 36
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
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    我々はカイコESTデータベースの充実を目的として種々の組織および時期のライブラリーからcDNAのクローニングを計画的に行っているが, 性染色体に由来するクローンは極めて少ない。そこで性染色体由来のBACのコンティグを作製し, 塩基配列を決定しつつ遺伝子の検索を行ってきた。今回は特にZ染色体上に存在するBmper遺伝子付近の約200kbpを調査した結果, この領域は転移因子由来の反復配列が多いことが判明し, ショットガンデータの30%以上に達した。それに対し構造遺伝子と推定される配列は少なく, Bmper遺伝子の他にgamma1-COP遺伝子および寄生性センチュウの遺伝子と類似の遺伝子の2つが見い出されたのみで, 遺伝子密度が低かった。このような遺伝子環境はW染色体上のものに近いと考えられ, この領域が性染色体同士の対合に関与する可能性を示唆している。一方, 今回の調査は概日時計遺伝子であるBmper遺伝子の構造をも明らかにした。既知の転写産物の部分配列をコードする領域は9つのエキソンから成っており, 現在は転写産物の両末端配列を調査しつつ遺伝子構造の全貌を解析している。
  • : ウイルスDNA複製に関与する遺伝子のmRNA蓄積の抑制
    白田 典子, 池田 素子, 小林 迪弘
    p. 37
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    アメリカシロヒトリ核多角体病ウイルス(Hyphantria cunea nucleopolyhedrovirus, HycuNPV)と、カイコ核多角体病ウイルス(Bombyx mori NPV, BmNPV)とを同時にカイコ由来のBmN-4細胞に感染させると、BmNPVの増殖が大きく阻害される。その際BmNPVのDNAの蓄積が著しく抑制される。この原因を探るため、ウィルスDNA複製に関与すると考えられている遺伝子の転写産物量の変動を、ノーザンブロット法によって調査した。ie-1、lef-1、lef-2遺伝子のmRNAの蓄積量は、BmNPV単独感染細胞とBmNPV·HycuNPV同時感染細胞との間に大きな差は認められなかった。同時感染細胞におけるie-2遺伝子のmRNAの蓄積量は、常にBmNPV単独感染細胞における蓄積量を上回っていた。lef-3、p143、dnapol遺伝子のmRNAの蓄積量は、同時感染細胞においてはBmNPV単独感染細胞と比較して低く抑えられていた。このことから、同時感染細胞におけるBmNPVのウイルスDNA複製の著しい阻害は、これらウイルスDNA複製に関わる遺伝子の転写産物の蓄積が抑制されるためにおこる可能性が考えられた。そこで現在は、転写産物蓄積の抑制がBmNPV増殖阻害の主要な要因かどうかについて検討している。
  • 加藤 泰弘, 池田 素子, 小林 迪弘
    p. 38
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    核多角体病ウイルス(NPV)は細胞の核内で遺伝子を発現し増殖する。NPVの2つのウイルス形態のうち出芽ウイルス(BV)は、エンドサイトーシスにより細胞内に侵入し、ウイルスDNAを核へ輸送する。BVの細胞への侵入にはウイルス膜タンパク質GP64が深く関わっていることが知られている。カイコ核多角体病ウイルス(BmNPV)は昆虫培養細胞の一種であるSf9細胞に接種した場合、大部分の細胞において感染が最後まで進行しない。これまでの研究により、ウイルスの侵入段階で感染が停止していることが明らかとなった。そこで、ウイルスの侵入に深く関わるGP64タンパク質が、BmNPVの宿主特異性に深く関わっている可能性が示唆された。本研究では、一部のSf9細胞ではBmNPVの感染が多角体の形成まで進行するという特性を利用し、AcNPV GP64を形質転換したSf9細胞においてBmNPVの感染の拡大が起こるか否かを調査した。OpNPV ie-2プロモーターによりGP64が発現するSf9細胞ではウイルス感染の明瞭な拡大は認められなかった。これは感染後期において、細胞のGP64が発現されなくなるためと考えられた。そこでGP64自身のプロモーターによりGP64が発現する細胞を作出し、感染の拡大が認められるか否かを調査している。
  • 飯山 和弘, 青木 智佐, 橋口 美保子, 清水 進, 早坂 昭二
    p. 39
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    微胞子虫胞子の表面抗原タンパクの多様性について検討した。カイコ分離株微胞子虫Nosema spp. NIS 408(群馬), NIS 520(埼玉), NIS 611(愛媛), NIS M11(茨城), 中国産N. bombycis CGS(広東省), Vairimorpha sp. NIS M12(千葉)およびシロイチモジヨトウ分離株N. bombycis Y9101(熊本)を供試した。また対照としてN. bombycis NIS 001(標準株)を用いた。微胞子虫胞子よりタンパク質を抽出し, 常法により抗NIS 001胞子ポリクローナル抗体を用いたウェスタン解析に供試した。その結果, NIS M11を除くNosema spp. において複数の共通バンドが検出され, 高い類似性が認められた。またNIS M11では高分子領域で反応がみられたのに対し, NIS M12では全くバンドが認められなかった。次にN. bombycis胞子の表面タンパク質の1つであるP30.4(Zhou, Z. Yら, 2000)をコードする遺伝子を標的としたPCRを試みた結果, ウェスタン解析において共通性の高かった分離株でのみ745bpの増幅産物が認められた。これら増幅産物の塩基配列は保存性が高く, 予測されるアミノ酸配列において99%以上の相同性があった。
  • 橋口 美保子, 青木 智佐, 飯山 和弘, 清水 進, 富丸 英博
    p. 40
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    ブラジルにおいて病蚕から分離された昆虫病原性微胞子虫TB-2由来クローン株、TB-2M-H1株およびTB-2L-H1株の生物学的性状についてこれまで報告してきた。今回は、TB-2M-H1株およびTB-2L-H1株のSSUr遺伝子部分塩基配列を決定した。その結果、TB-2M-H1株はNosema bombycisと相同性が高く、一方、TB-2L-H1株はN. acridophagusと高い相同性を示した。また、TB-2M-H1株、TB-2L-H1株、N. bombycis NIS 001株、Nosema sp. NIS M11株およびVairimorpha sp. NIS M12株のパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)解析を行った。その結果、いずれの株間でもカリオタイプにおいて明確な違いが認められた。さらに、DIG標識プローブを用いてSSUr遺伝子を標的とするサザンハイブリダイゼーションを行ったところ、TB-2M-H1株およびTB-2L-H1株において全ての染色体上にSSUr遺伝子の存在を示唆する結果が得られた。
  • 青木 智佐, 橋口 美保子, 飯山 和弘, 清水 進, 富丸 英博
    p. 41
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    1994年にブラジルにおいて病蚕1個体から分離された微胞子虫胞子浮遊液サンプルTB-2をクローニングして得られたTB-2M-H1株およびTB-2L-H1株について、それぞれの微胞子虫感染が維持されているカイコ由来Bombyx mori BmC140細胞系を供試し、各微胞子虫株の電子顕微鏡観察を行った。その結果、in vitroにおけるTB-2M-H1株およびTB-2L-H1株の生活環では、Nosema属微胞子虫の基準種であるカイコ微粒子病病原Nosema bombycisの場合と、基本的に同様の種類の連核性原虫細胞が観察された。また、長極糸型胞子の極糸コイル数は、TB-2M-H1株では9∼10とN. bombycisと同様であったのに対し、TB-2L-H1株では11∼13であり極糸がやや長い傾向にあった。さらに、TB-2M-H1株の短極糸型胞子には、その前極側に胞子内部の1/3程度を占めるposteriosome様構造物が高頻度に認められた。
  • 岩野 秀俊, 冨山 あすか, 福原 敏彦, 畠山 吉則, 仲井 まどか, 国見 裕久
    p. 42
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    ベトナム国Can Tho市のダイズ畑で、一年中発生するハスモンヨトウ個体群にウイルス病や微胞子虫病の流行が認められた。日本に持ち帰った幼虫が高率で微胞子虫病の病徴を示したので、現地の畑で野外個体群において微胞子虫病が密度調節に重要な要因として働いている可能性が考えられた。病死幼虫から分離した微胞子虫株は、卵円形の胞子を有し、感染組織の染色標本を基にした発育期観察により、Nosema属微胞子虫と判定した。分離胞子を抗原とした単クローン抗体感作ラテックスによる凝集試験を試みたところ、分離胞子は抗N. bombycis単クローン抗体感作ラテックスとのみ特異的に反応した。さらに分離株のDNAの塩基配列はN. bombycisの保存株と100%一致した。この結果、本分離株はNosema属の模式種であるN. bombycisの一系統であると判断した。本害虫からのN. bombycisの分離は、これが初事例となる。分離株は、宿主幼虫に対して全身感染性を示し、病原性は弱かったが、感染親から次代へ経卵巣伝達による垂直伝播が認められた。
  • 北川 紀雄, 今井 邦雄, 新美 輝幸, 山下 興亜, 柳沼 利信
    p. 43
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    カイコの休眠ホルモン(DH)は食道下神経節(SG)で合成され、発育中の卵巣に作用して胚休眠を誘導する。これまでに、サンドウィッチ酵素免疫測定法(Sandwich ELISA法)を用いてSG中のDH量の発育変動を調査し、休眠と非休眠タイプで差異が認められるのは蛹中期以後であることが判明した。従って、この時期に休眠タイプでは血中へのDHの放出が盛んになると考えられた。次に血中DH量を測定することが重要な課題となるが、Sandwich ELISA法(fmoleレベル)では今のところ血中DHの定量は成功に至っていない。血中のDHレベルがfmole以下という超微量である可能性、または反応系を阻害する物質が存在する可能性が考えられる。そこで、血液の有効な濃縮法と種々の阻害物質を取り除く方法について検討を加えている。特に、逆相カラムを用いたイソプロパノール分画とDH結合物質の除去について検討している。
  • 阿部 志津子, 楊 平, 安 嬰, 鈴木 幸一, 今井 邦雄
    p. 44
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    天蚕の前幼虫態休眠は、抑制因子(RF)と成熟因子(MF)によって制御されていると考えられており(Suzuki et al., 1990)、RFについては単離同定され、アミノ酸配列構造が明らかになっている。また、このRFにより、ラット肝癌細胞の増殖が抑制され、細胞周期のG0/G1期で休止することが確認された(Yang et al., 投稿準備中)。本研究では、RFの普遍性の可能性を解析するために、カイコ卵の休眠化作用について検討した。今回RFは、生体内アミノペプチダーゼによる分解を回避するためN末端に脂肪酸を結合したものを、5%エタノールまたはセサミオイルに溶解し、カイコ非休眠卵産生の蛹(大造)に投与した。初めに、蛹化10時間以内のカイコ蛹より食道下神経節(SG)を除去し、その後、各濃度の合成RFをこのカイコ蛹に注射し、交尾、産卵させ産下卵の休眠性を調査した。その結果、高い確率で休眠卵が誘導された。また、休眠化した卵をチオニン染色液を用いて染色し、卵内で休眠する胚子を観察するとともに、冷蔵浸酸によりその孵化率を調べたところ、通常の休眠卵とほぼ同等であり、形態的な異常性もまったく認められなかった。一方、脂肪酸のみを注射した蛹からは休眠卵は誘導されなかったことから、休眠卵誘導活性の本体は天蚕RFであることが示唆された。現在、N末端にいくつかのアミノ酸を付加した抑制因子に関しても同様の実験を行なっている。
  • 高橋 正樹, 新美 輝幸, 柳沼 利信
    p. 45
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    カイコ胚の休眠開始·維持に直接関わる分子機構は未だ明確ではない。Bm05遺伝子は休眠維持又は覚醒期特異的に発現する遺伝子探索の過程で単離されたが、低温で積極的に誘導される遺伝子ではなかった。この遺伝子の機能を理解する一助として今回は、休眠開始期におけるmRNA発現パターンを調査することとした。まず即時浸酸処理による休眠回避卵においてBm05遺伝子のmRNA量の変動を調査したところ、急激な減少が認められた。次に休眠·非休眠卵でmRNA量を調査したところ、産下24時間までは両者間にパターンの差異は認められなかったが、非休眠卵ではその後、著しい減少パターンを示した。アミノ酸配列レベルで検索したところ、ヒト酸化抵抗(OXR1)遺伝子/ショウジョウバエL82遺伝子/マウスC7遺伝子familyの翻訳物と相同性が高いことが判明した。OXR1タンパク質は活性酸素による損傷を修復させる機能を持つと考えられている。カイコの休眠開始期には卵内の酸素利用が著しく低下していることを考慮すると、Bm05が開始時に酸素利用に関わって重要な役割を担っている可能性が考えられた。
  • 松本 具子, 森部 頼子, 新美 輝幸, 柳沼 利信
    p. 46
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    カイコ休眠卵ではmitosis-promoting factorのcyclin Bタンパク質の活性が低いために、G2期で胚細胞分裂が停止すると考えられている。ショウジョウバエではcyclin B mRNAの3’非翻訳領域内のNanos-response elementにnanos/pumilioタンパク質複合体が結合することで、cyclin Bタンパク質の翻訳が抑えられる。この機構がカイコにも適応されるか否かを検討するため、まずカイコ卵からnanos及びpumilio cDNAを単離し、その塩基配列を決定した。このnanos (M)の塩基配列は、カイコの5令幼虫卵巣から既に単離されているnanos cDNAの配列とは異なっていた。続いて、胚発生期におけるnanosとpumilioのmRNA量の変動をRT-PCR法を用いて調査したところ、休眠卵と非休眠卵、また2種類のnanos間において、変動パターンに有意な差異は認められなかった。次に大腸菌系でnanos (M)とpumilioの両タンパク質を発現させて、2つのタンパク質間の結合能、並びにcyclin B mRNAとの複合体形成能を調査することにした。両タンパク質の発現には、pETベクター(Novagen)とpGEXベクター(Pharmacia Biotech)を用い、nanos/pumilioタンパク質が結合できるか否かを検討するためのin vitro系を構築している。
  • 光増 可奈子, 新美 輝幸, 山下 興亜, 柳沼 利信
    p. 47
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    カイコ胚の休眠性は、母蛹の食道下神経節より分泌される休眠ホルモン(DH)の卵巣への作用によって決定される。2化性系統では、DHの合成·分泌は母世代の卵期の環境条件に影響される。ここでは、DHの合成·分泌に関与する因子を同定することを目的とし、休眠又は非休眠卵産生カイコの脳-食道下神経節で特異的に発現する遺伝子の単離を試みている。これまでに、休眠又は非休眠卵産生として運命づけた母蛹の脳-食道下神経節(Br-SG)より調製したcDNAを鋳型としてSABRE法やPCR-Select法によるサブトラクションを行ってきたが、未だタイプ特異的に発現している遺伝子を単離するには至っていない。しかし、その過程で脂肪体、中腸、卵巣等ではほとんど発現が認められないが、脳-食道下神経節特異的に発現する遺伝子K5を単離している。この翻訳産物の中枢神経系に於ける機能も興味深いので、K5 cDNAの全配列の決定を進めている。又、休眠·非休眠卵産生間の遺伝子発現の差異をより高感度で検出する為に、幾つかの改良を試みている。まず、特異的なバンドの検出感度とゲル上でのバンドの分離能を改善する為、サブトラクション後のPCR増幅産物をRIで標識し、シーケンスゲルでの電気泳動による解析を行っている。更に、これまでは蛹化後1日から3日のBr-SGをサブトラクションに用いていたが、蟻蚕等の種々のステージを用いることも検討している。
  • 門 宏明, 日下部 宜宏, 青木 智佐, 李 在萬, 河口 豊, 古賀 克己
    p. 48
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    遺伝子相同組換えは、普遍的生命現象であり、DNA損傷の修復や減数分裂期の相同染色体分配においても重要な働きをしている。また、それに働くタンパク質は細菌からヒトまで機能、構造ともよく保存されている。細胞は、電離放射線·紫外線·化学物質などによる外的要因や生命活動の維持に必要な細胞内代謝に伴って発生する突然変異原、活性酸素などの内在的要因によって、DNAが恒常的に損傷を受けている。しかし、生物はゲノムを安定に保持するための多様なDNA修復機構を備えている。損傷の中でもDNA二重鎖切断(DSB)は本来、染色体欠失をもたらす致命的な損傷であるが、真核生物ではHRや非相同組換え(NHEJ)によって修復が行われている。酵母のようなゲノムサイズの小さな単細胞生物ではHR、ヒトなどのゲノムサイズの大きな多細胞生物ではNHEJが多用されているが、昆虫細胞では、どちらの系が多用されているか不明であり、また、2つの系の相互関係も明らかではない。本研究では、昆虫細胞におけるHR分子機構の解明を目的として、その測定系の確立とその解析を試みた。まず、細胞内でHRが起きた場合にのみルシフェラーゼ活性が現れるプラスミドを構築した。そのプラスミドに制限酵素で二重鎖切断を導入すると、二重鎖切断を導入しない場合と比較して、約4倍のHR活性が見られた。さらに、二重鎖切断の末端の片方にHairpin状のリンカーを付加し、Single strand annealing(SSA)とNHEJの経路を阻害する基質を作製した。その結果、染色体外の二重鎖切断修復にはSSAの経路が多用されているが、HRの経路でも修復が行われていた。現在、RNAi法を用いたHR酵素Rad51やNHEJ酵素Ku70の発現抑制、また、プラスミド分子間のHR活性をみるプラスミドも作成しHR活性の解析を行っている。
  • 長屋 昌宏, 大脇 崇志, 小林 淳, 吉村 哲郎
    p. 49
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    鱗翅目昆虫やショウジョウバエ由来の培養細胞を用いたタンパク質生産系は優れた生産効率とN-グリコシル化特性を有するため、組換え糖タンパク質生産に広く利用されてきた。しかし、一般的に昆虫細胞ではシアル酸などを含む複合型糖鎖の付加が起こらないため、ワクチンなど医薬用有用糖タンパク質生産への応用は敬遠されてきた。多くの研究から、昆虫細胞による複合型糖鎖の付加には、昆虫特有のN-グリコシル化経路の改変が必要不可欠であると認識されるようになった。このような代謝工学的改変は、ショウジョウバエの膨大なゲノム情報の整理と活用により効率よく達成できると期待され、また、その成果を応用すれば、バキュロウイルス発現系のN-グリコシル化経路の改良も可能になると予想される。そこで我々はこれまで実験に使用してきた5種類の鱗翅目昆虫細胞(BmN4、Sf9、High Five、SpIm及びAnPe)に加え、ショウジョウバエS2細胞でもカイコ前胸腺刺激ホルモン(PTTH)を生産させ、付加したN型糖鎖の構造を比較分析した。レクチンブロット分析では、各鱗翅目昆虫細胞で生産されたPTTHの糖鎖は、いずれも末端マンノースとα1, 6-フコースの枝分れを有する構造が主体であり、High Five細胞では、さらに、抗-HRP血清を用いたウエスタンブロット分析から、α1, 3-フコースの枝分れを有する糖鎖が比較的多いことが示唆されたのに対し、S2細胞で生産されたPTTHもα1, 6-フコースの枝分れの程度は低いものの末端マンノースを有する糖鎖が主体であることが判明し、N型糖鎖に類似性があることが確認された。以上の結果から、鱗翅目昆虫細胞とショウジョウバエ細胞のN-グリコシル化経路および関与する遺伝子群は共通性が高いと考察されたので、ショウジョウバエS2細胞をモデルとした昆虫細胞のN-グリコシル化経路の改変に役立つ知見を集積するために、さらに詳細な糖鎖の構造比較を行っている。
  • 今西 重雄, 羽賀 篤信, 秋月 岳
    p. 50
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/02/03
    会議録・要旨集 フリー
    培養細胞株の樹立では初代培養期間をいかに短縮できるかがポイントであるため、我々は今回新たに初代培養用培地を開発すると共に供試組織のコラゲナーゼ処理と細胞外マトリックスの併用によるフラスコ面への細胞の付着と増殖促進を検討した。その結果、初代培養用培地として既存の数種の培地組成を参考に新たにMX培地(MX20、MX30)を開発した。MX30培地は鱗翅目昆虫以外の数種昆虫種でも組織培養時に細胞増殖を活発に促進し、血球系細胞、脂肪体、卵巣や精巣の各組織由来の細胞の増殖を促進し従来の培地よりも飛躍的な改善が認められた。また細胞外マトリックスとしてフィブロネクチン及びカイコ蛹殻から抽出した化学修飾、無修飾の各キチンをコーティングしたフラスコではいずれも組織の定着や細胞増殖に効果があった。個体から摘出した血球系細胞、コラゲナーゼ処理した脂肪体や生殖巣等の組織培養では組織特異性が認められるが、カイコ精巣などの組織からも細胞の遊出や増殖が可能であり、カイコ蛹殻抽出のキチンでは対培地含有量の0.001%∼1%の濃度範囲でも細胞増殖促進作用が認められた。以上をまとめると、マルチウエルプレートなど小規模培養においては初代培養期間を2∼3ヶ月間に短縮も可能となった。
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