表面科学
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金属表面に生成する表面化合物の構造と反応性
田中 虔一谷口 昌宏
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1992 年 13 巻 2 号 p. 101-110

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抄録

金属表面は化学的に特異反応性を示すことはよく知られている。特に触媒作用はその典型的な例であり,これまで吸着の概念と速度論的な記述で理解し説明されてきた。しかし「吸着」,「吸着に伴う表面再構成」および「吸着分子の反応」といったこれまでの概念では表面変化の実体や表面での化学反応を正しく理解できないことは今や明らかである。特に,Cu(110)およびAg(110)表面にO2が吸着した際に見られる表面の変化はこのことを決定的に示している。Cu(110)表面にO2が吸着するとp(2×1)構造のLEED像が得られるが,STMで調べてみるとこの現象は単純な酸素の吸着ではなく,ステップなどからテラス上に拡散してきたCu原子がO2と反応し一次元化合物であるCuO鎖を生成し,このCuO鎖がp(2×1)構造を作って配列する現象である。Ag(110)の場合もほとんど同じであるがAgO鎖の配列はより複雑であり,Ag(110)上ではAgO鎖の2次元配列構造が複数共存する。その結果,その二種類の構造の境界がたいへん面白い問題を提示することになる。すなわち,二つの異なる構造が整合接合する場合でもエネルギー的に等価な配置が存在すると境界の一次元構造は乱れる。一方,同一構造で位相を異にする場合はその接合構造が不整合となり,エネルギー的に等価な場所が複数になるので境界構造は必ず乱れる。表面化合物の生成とその境界構造は触媒反応を考えるうえでもたいへん重要である。たとえば,メタネーション反応(CO+3H2→CH4+H2O)はNi(100), Ni(111)表面でほとんど同じ活性を示すが,反応中間体である表面カーバイドの構造を調べてみるとNi(100)とNi(111)表面でまったく同じ構造であり,このことが同一活性の原因である。これらの結果は表面現象を吸着のような静的な概念でなく,表面化合物の生成と考えることの重要性を示す。

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© 社団法人 日本表面科学会
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