球殻炭素クラスター“フラーレン”として,C60,C70以外にもC76,C84などがすでに単離されている。これらフラーレン分子群の構造は,12の五員環が六員環の炭素原子ネットワークに入ることによって球殻状に閉じている。炭素数76以上の高次フラーレンの構造は,一般に対称性が低く,異性体もいくつか存在する。これら高次フラーレンの構造を多面体としてとらえ,展開図法を用いて平面上で眺めることによって,おのおのの異性体がもつ個性を抽出することが可能である。特に五員環の相対的な配置によって定義されるフェイゾンラインは,結合交替や安定性のみならず,フェルミレベル近傍の電子状態にも大きな影響を与える。そのため巨大分子としての高次フラーレンの表面電子状態を研究する際に,フェイゾンラインは有効であると考えられる。たとえばSTMを用いたフラーレンの直接観察による,異性体同定や電子状態推定のための,新たな手段としてフェイゾンラインは役に立つであろう。