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Print ISSN : 0289-6540
施主の意識変革を促す実社会連携型PBLの提案
高島 海臼井 由樹上野 康治金田 重郎
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2018 年 35 巻 1 号 p. 1_41-1_53

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抄録

情報システム開発においてしばしば発生する課題に,情報システム発注者(以下,「施主」)自身が,情報システムの意義を充分には理解していない (実感できていない)ことがある.理解していないために「要求」が存在せず,要求分析は困難となる.学生が社会に出て情報システムを開発・保守する実社会連携型 Project Based Learning(PBL)でも問題は同様である.この問題を解決するため,本稿では,基礎情報学の原点に立ち返り,「情報に価値を付加しているのは人間であり,人間が行動を変えるような社会情報(言語)のループを作れば,そこに価値が生まれる」という視点をPBLに導入する.本PBLでは厳しい経営環境下の歯科開業医をモデルケースとしている.具体的には,「患者様カード(コンピュータを前提としない情報システム)」により,施主である医師と顧客 (患者)をつなぐループを提案した(第1フェーズ).これにより,施主は情報システム利用が再来院率を向上させることを実感した.次に,施主の社会貢献活動の紹介やSNSとのリンクを持たせ,施主が情報の流れのループの中にいる様にデザインした情報システム(Webサイト)を提案・構築した(第2フェーズ).本PBLで,最も変容したのは施主である.自らが情報発信者に変容し,新規患者の来院(及び既存患者の再来院)に関与している.ソフトウェア技術者における「情報システム提案能力」の重要性がしばしば指摘されるが,本PBLを見る限り,情報システムの構築では,施主の情報行動の変革を促す様な「仕掛け」が効果的である.

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© 2018 日本ソフトウェア科学会
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