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Print ISSN : 0289-6540
視線と心拍を用いたプログラム理解状況の推定
曾我 遼鹿糠 秀行久保 孝富石尾 隆
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2023 年 40 巻 1 号 p. 1_24-1_44

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抄録

プログラムの理解の誤りに開発者自身が気づくのは意外に難しい.そのため,理解の難しさや正しさという理解状況を客観的に推定し,開発者本人へとフィードバックすることは,誤った理解の見過ごしを防ぐ上で有効だろう.先行研究では,関数単位で理解の状況を推定するため,関数の閲覧履歴と開発者の心拍を計測・解析することで,理解状況を説明するプログラム特性と心理特性の算出方法が提案されている.しかし,関数の一部を対象として同様にプログラム特性や心理特性を算出しようとする場合,対象のプログラム行数や閲覧時間が関数全体と比較して相対的に小さくなってしまうため,算出に必要なプログラムの情報や心拍データを十分に確保できない状況に陥ってしまう.そこで本研究では,関数の一部に対しても視線と心拍から理解状況が説明可能となるようなプログラム特性と心理特性の算出方法を提案する.プログラム特性は関数の一部に対する変数メトリクスを定めて算出し,心理特性は視線から算出した関数の一部への着目度により心拍指標を重み付けする加重平均心拍指標を定めて算出する.さらに,理解状況のフィードバックの適用可能性を検証するため,プログラム理解実験で収集した理解難易度と理解の正しさを分析する.提案手法により関数の一部に対する理解状況を推定できるか実験して検証した結果,理解の難易度と理解の正しさの推定で異なる特性に基づいて有意に推定でき,正解値との相関係数はそれぞれ0.77,0.78と高い値であった.また,経験の浅い開発者の方が経験豊富な開発者と比較して理解を誤りやすく,理解を誤った場合でも理解が難しいとは申告しない傾向にあり,経験の浅い開発者に対する理解の正しさのフィードバックはより意義があるものと考えられる.

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© 2023, 日本ソフトウェア科学会
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