福祉施設においては,利用者の転倒等の事故を防止するために,利用者の行動に制限を加える場合がある.他方,利用者の身体拘束の原則禁止を規定した「身体拘束ゼロへの手引き」が厚生労働省から示されており,その中で,身体拘束を行うのは「事故防止のために緊急やむを得ない場合」に限定されている.したがって,今後は身体拘束が例外的に許容される要件をどのように具体化していくのかが大きな課題となってくる,本稿では,高齢者介護施設や一般病院における事故の責任が問題となった最近の判例を題材にしながら,上記「手引き」で示された拘束の適法性の限界の問題について検討を加えている.結論として,拘束の3要件の中の「非代替性」が極めて流動的で不明確な概念であることを指摘し,この要件の充足について事後的な司法審査の場に委ねることは,かえって現場実務を身体拘束の方向に誘導する結果につながりかねないと述べている.