本研究は,わが子の出生から「自閉症」との診断に至るまでの母親の主観的経験の構造と過程を明らかにすることを目的とする.本研究の結果は,自閉症児の母親5名のインタビュー調査に基づくものである.母親から語られたのは,わが子のあるがままの存在を受けとめることをめぐる葛藤のストーリーである.母親は,1歳半健診という社会的評価にさらされた後,早期療育への導きを受けるか否かにかかわらず,子育てに対する期待や願望と,わが子の育ちの現実との間にギャップを感じざるをえなくなる.わが子の育ちをめぐる疑惑を否認し続けることにも限界を感じ始めると,わが子に障害があるかもしれないという納得への準備作業にとりかかる.それは,母親が主体的適応力を発揮して,子どもと共に新たな生活を形成していく過程としても位置づけられる.以上より,母親が主体的適応力を発揮するための条件整備の重要性と,そのための支援課題を提示した.