抄録
2000年に米国議会で宣言された “痛みの10年” に端を発し,欧米では「痛みの治療を受けることは患者の権利であり,痛みを治療することは医療者の義務である」とする考えが浸透してきた。創傷治療においても創の治癒にのみ焦点が当てられていた従来の治療法が見直され,疼痛の軽減という患者側の視点に立った医療の重要性が唱えられている。慢性創傷のように “痛み” 信号が長期間持続的に発せられると,神経回路は可塑的に変化し,痛覚過敏やアロディニアといった “複雑な痛み” を生じる。創傷を扱う医療従事者は,慢性創傷の痛みと急性創傷の痛みを分けて考える必要があり,慢性痛は単に急性痛が長引いたものではないという理解が求められる。“複雑な痛み” にしないためのツールとして提言されたベストプラクティス “ドレッシング交換時の疼痛軽減「疼痛軽減の実践」” に記載されている10項目のコンセンサス・ステートメントを自験例を交えて紹介した。