抄録
急性創傷と慢性創傷の違いは時間的な観念から論じられるべきでなく,急性創傷は解剖学的,機能的な結合性を維持し,修復課程が時間空間的に制御されたもので,一方,慢性創傷は,解剖学的,機能的な結合性を維持されず,結果として解剖学的,機能的維持性を継続し得なかったものとされる。これは,時間のみでの規定にあまり意味がないばかりか,創傷が急性と慢性にあらかじめ予測しにくいものであることを示唆している。また,急性創傷については,頻度が高いことと,さらに当然治癒するものと考えられているものの,全身性,局所性因子の阻害因子を取り除くことでさらに効果的な創傷治癒が得られる。
急性創傷と慢性創傷へ分かれる分子機構や,受容体を介した情報伝達機構の検討により,効果的な創傷治療の試みはなされているものの,臨床において慢性になった創傷を急性(性状)創傷(治癒課程)に戻しうるかなど,いまだに曖昧な点も多い。