移植
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長期待機が見込まれる移植待機中患者のマネージメントにおける問題点 ~循環不全をきたした特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)の一例から考える~
川﨑 剛関根 亜由美北原 慎介岡谷 匡重田 文子坂尾 誠一郎稲毛 輝長和田 啓伸鈴木 秀海中島 崇裕吉野 一郎
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2020 年 55 巻 Supplement 号 p. 394_1

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抄録

本邦の肺移植は実施件数および待機患者数とも増加傾向にあり、平均待機日数は長期化している。患者は待機中に全身状態がしばしば悪化し、担当医は長期待機が見込まれる場合に、肺移植ブリッジの可能性が低いことを認識しながら、どこまで積極的な対応をすべきか判断に難渋することが多い。最近経験した以下の事例について検討したい。症例は20代男性、6歳時にIPAHと診断され、最大の内科的治療にも関わらず、進行性であったため、日本臓器移植ネットワークに登録となった。その後、体血圧低下および倦怠感が出現し増強したため、登録6か月後に入院となった。入院時、血圧 75/44 mmHgと循環不全を呈したため、ICUにてカテコラミンの持続静注管理が開始された。その際、循環動態がさらに悪化した場合の対応について、肺移植チームにて検討した。その結果、長期待機の見込みに加え、ECMO用のブラッドアクセスが容易でないことから、肺移植ブリッジの可能性は極めて低いという見解に至った。しかし、若年であること、ご家族の心情、病態改善によるECMO離脱の可能性などを考慮して、医療資源の状況が許せば、一定の期間を念頭においたV-A ECMO管理までを実施する方針とした。本症例のように、移植待機中患者の容態が悪化した場合の診療方針について、平均待機期間の現状、医療資源および倫理面などを考慮した診療ガイドラインの整備が求められる。

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