腸内細菌叢研究における画期的な成果が発表され、とくに腸管免疫に対する注目が集まっている。これまで、乳酸菌、ビフィズス菌といった名前は知っていても、その機能性、特に腸内環境改善作用が今ほど注目されてはいなかった。腸内細菌叢の概要が遺伝子解析技術により明らかとなり、ヒト個体の細胞数以上に存在する100兆個を超える細菌叢がどのような機能を有し、どのようにして宿主との共同生命体を形成しているかを理解することは、疾病の予防、健康増進に向けた重要な研究領域となっている。長寿地域京丹後市と京都市内の高齢者(65歳以上)の腸内フローラを比較した結果、京丹後市の高齢者に多い菌の上位4種が酪酸産生菌であった。さらに、食事調査の結果では、食物繊維の摂取の影響が示唆された。食物繊維を餌として発酵により酪酸産生菌が酪酸を産生し、その酪酸が腸内環境を支えていることが明らかになりつつある。酪酸菌と大腸上皮細胞が持ちつ持たれつのwin-winな良好な関係を保つことで、腸の“粘膜バリア”を守り、腸内環境の乱れ(ディスバイオーシス)を防ぐメカニズムも明らかになってきている。酪酸は分泌型IgA産生を亢進させ粘膜バリア維持にも作用するだけでなく、制御性T細胞誘導を始めとする炎症細胞への作用、さらには免疫抑制細胞への作用も明らかになりつつある。本講演では、日本人腸内細菌叢の概要を解説し、腸内細菌叢の中でも短鎖脂肪酸、特に酪酸産生菌の腸管免疫との関わりについて解説したい。