移植
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心臓移植において悪性腫瘍は一律に適応除外とされるべきか?
奥村 貴裕木村 祐樹近藤 徹六鹿 雅登碓氷 章彦室原 豊明
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2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s504

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抄録

44歳女性、Duchenne型筋ジストロフィーの保因者。頻回の入退院を繰り返し、NYHA III~IV度で推移した。最高酸素摂取量は7.7mL/min/kgまで低下し、10回の心不全増悪による入院に至った。左室駆出率は14%、左室拡張末期径は84mmであった。心臓移植適応検討に向けた精査にて、甲状腺右葉に結節影を認めた。甲状腺乳頭癌と診断され、心臓移植の適応外と判断された。年齢およびT3N1aM0からStage 1と診断され、甲状腺全摘出術および気管周囲リンパ節郭清が行われた。当時はDestination Therapy/Bridge to Decision目的の植込型補助人工心臓は装着できず、カテコラミン持続投与あるいは体外式補助人工心臓装着下に、心臓移植適応となる寛解治癒後5年を待つ方針も検討されたが、長期にわたる入院下での移植待機生活には耐えられない旨の申し出があり、その後4回の心不全増悪入院を繰り返し、翌年永眠された。現行の適応基準では、悪性腫瘍は絶対的除外条件のひとつであるが、本症例の適応外要因となった甲状腺乳頭癌Stage 1の5年生存率は99%以上であり、5年の再発・死亡回避率も90%程度に至る。実際、2016年のISHLTのlisting criteriaにおいても、癌のタイプ、治療への反応性、転移などにより、再発リスクが低い場合には心臓移植も考慮されるべきと記されている。再発リスクが低く生命予後が担保されうる悪性腫瘍合併例では、心臓移植適応に再考の余地があるのではないかと考える。

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