2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s333_2
【背景】末期重症心不全に対する心臓移植の良好な治療成績が報告される一方で、待機期間の長期化や深刻なドナー不足などの課題がある。臓器提供の推進に加えて、心臓移植におけるドナー適応基準の見直しも急務である。今回、僧帽弁閉鎖不全症(MR)を伴うドナー心に対してバックテーブルで僧帽弁形成術(MVP)を行った心臓移植の2例を報告する。【症例1】38歳女性。アドリアマイシン心筋症に対して体外式左室補助人工心臓(LVAD)装着状態で移植待機中に臓器提供を受ける方針となったが、三次評価でこれまでに指摘のない重症MRが判明した。僧帽弁後尖の腱索断裂と弁尖逸脱を認め、バックテーブルで三角切除法によるMVPを行った後に心臓移植を行った。総虚血時間は246分であった。術後1年7ヵ月に渡りMRの再発を認めなかった。【症例2】48歳女性。虚血性心筋症に対して植込型LVAD装着状態で移植待機中に臓器提供を受ける方針となったが、三次評価でこれまでに指摘のない中等症から重症の機能性MRが判明した。僧帽弁弁尖に異常を認めず、バックテーブルで僧帽弁輪縫縮術を行った後に心臓移植を行った。総虚血時間は212分であった。術後9ヵ月に渡りMRの再発を認めていない。【結語】MRを伴うドナー心は一般的にはマージナルドナーとみなされるが、心機能が保たれ虚血許容時間内にMVPが実施可能と想定される場合には、虚血時間を最小限に抑える戦略下に積極的に使用することが許容される可能性がある。