移植
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57 巻, Supplement 号
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  • 岩田 充永
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s130_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    2020年2月から始まったコロナ禍は3年になろうとしています。

    私は救急医として、所属機関の方針「大学病院としての高度医療の提供」「高度救命救急センターとしての救急医療の提供」「新型コロナウイルスとの対峙」を念頭に診療を行っています。

    第1波~第4波当時は大変元気であった方が発症から7日目くらいに突然呼吸状態が悪化する、「幸せな低酸素」という経験したことがない病態との闘いでした。コロナ以外の救急医療とコロナの重症診療の両立に苦しんだ時期でしたが、重症患者に対する治療法が確立した時期でした。この頃に医療者のワクチン接種が始まり、「患者さんに知らない間に感染を広げたらどうしよう」という不安は軽減されてきました。

    第5波:ワクチン接種とデルタ株蔓延の競争の時期でした。重症者の多くは、中年・若年の方で、ECMO、人工呼吸器が最も稼働した時期です。この年代で呼吸状態が悪くなることは、医師となってこれまでに見たことがない光景でした。抗体療法が開発され、「コロナウイルス感染者の重症化を予防する」治療が初めて手に入りました。「今日のワクチン接種が一か月半後の感染者を減らす」「今日の抗体療法が一週間後の重症者を減らす」と現場では声を掛け合っていました。

    第6波:「ワクチン2回で重症化予防効果はあるが、感染予防効果は乏しい」ことを実感しています。しかし、コロナ病床の景色は第4波、第5波の「はじめての光景」ではなく、“déjà-vu”と感じています。今後はどうなるのか、ワクチン接種と重症化予防治療法の有効性について適時情報のバージョンアップを行い医療と社会生活のバランスについて考えることが重要と考えます

  • 木庭 愛, 山口 昴久, 吉川 美喜子
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s136_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    はじめて一定の条件の下で脳死を人の死と位置づけ、脳死体からの臓器提供に係る諸課題について整理・規定し、道筋を整えた臓器移植法の成立・施行から本年で25年となる。以降、令和4年3月末までに法に基づき821名の方が脳死と判定され、臓器提供に至った。令和2年度は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、臓器提供数が減少したが、令和3年度は回復し、脳死下の臓器提供数が過去2番目に多い79事例であった。しかし、現状では、依然、諸外国に比べると、我が国の人口当たりの臓器提供件数は格段に少なく、また移植までの待機期間も非常に長い。

    このような状況を踏まえ、昨年度、厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会において臓器移植医療制度の現状を振り返り、課題を整理するとともに、臓器移植を一層推進するための方策について検討を重ね、提言として取りまとめていただいた。提言をふまえ、厚生労働省として、「臓器移植に関する普及啓発の促進」「臓器提供の意思を公平、適切に汲み取ることができる仕組みの整備」「医療技術の活用による臓器提供・移植の推進」について日本救急医学会、日本移植学会等関係団体のご協力のもと、移植医療の推進と臓器提供数増加に向けた取り組みを進めている。これら取り組みとこれからの展望について概説する。

  • 大宮 かおり, 芦刈 淳太郎
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s136_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     脳死下臓器提供はガイドライン第4に規定する要件を満たす施設に限定されており、2022年3月末時点で908施設ある中、体制を整えている施設は449施設であり、全体の約半数に過ぎない。

    2016年~2021年までの6年間で、臓器提供の可能性がありながらも施設体制が整っていなかったため臓器提供に至らなかった事例は22例あった。また、ドナー適応のあった1416例中、家族からの申出がきっかけとなり臓器提供に至った事例は506例(35.7%)あったのに対し、医療者からの臓器提供に関する情報提供がきっかけであった事例は855例(60.1%)と多数を占め、2021年に実施したドナー家族に対する意識調査でも「臓器提供を考えたきっかけは医師から話を聞いた」と回答した割合が最多であった。

     JOTでは厚生労働省より助成を受け、臓器提供体制整備に係る各種事業を実施している。そのうち、臓器提供施設連携体制構築事業では、地域の中で臓器提供経験の豊富な施設(拠点施設)から経験の乏しい施設(連携施設)へ人的・技術的支援を行うことで、地域医療機関間の連携を構築・強化する取り組みを行っており、参加施設は年々増加傾向にある。2022年度は拠点施設が14施設、連携施設はのべ115施設であり、拠点施設は各ブロックに1施設以上配置された。さらに、各医療機関が臓器提供に関する学習や院内体制整備を柔軟に実施できる環境を整えることを目的として、e-ラーニングシステム(J-ELS)を構築し、様々な教育教材を提供している。

     患者や家族の意思を尊重し、移植を必要とする患者に不利益が生じないよう、医療機関が臓器提供を円滑に行うためのJOTによる取り組みを紹介する。

  • 小野 元, 加藤 ようこ
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s137_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    臓器提供数増加のための方策として、脳神経外科医の立場から脳死下臓器提供、心停止下臓器提供における医療現場負担を抽出し検討する。

    法改正により、本人意思確認に家族の支援をえた脳死下臓器提供においては「臓器提供」=「脳死とされうる状態」+「家族希望」という方式を得たことで、救急集中治療現場では家族への説明がしやすくなったと予想できる。

    しかし2年ほど前に発生したCOVID-19の影響もあり脳死下臓器提供はじめ、心停止提供を含めて全体数が低下した。その理由としては、提供可能となる対象症例が減った可能性もあるだろう。さらにここ数年のCOVID-19対応では救急集中治療の現場において脳神経外科医も当然影響をうけ、通常医療と医療医療者と家族の面談、そして本人と家族の面会に制限が生じた。

    このことは患者の命を守る救急集中治療現場ではCOVID-19治療の限界とともに、治療選択についての説明や相談が本人・家族と十分できない状態において非常に困難さを感じた。いみじくもこのことは臓器提供への説明や相談と同じで臓器提供に対する現場負担の本質であろうと考える。患者本人・家族が希望する終末期、もしくは死の在り方への対応に未来の臓器提供方法を脳死下臓器提供方式のみとしたいならば、それは本来の法律にある患者の意思に沿わない。本来、臓器提供は終末期対応の1つとして人の善意、もしくは家族希望で行う医療である。つまり救急医療における終末期医療対応として患者・家族を含めた倫理的対応を念頭に新しい提供システムを念頭に再考慮すべきと思われる。臓器を将来に向けて検討する。

  • 織田 順
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s137_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     臓器・組織移植による治療はめざましい発展を遂げてきたが、移植医療が成り立つプロセスの始まりは、臓器・組織提供する方やご家族の貴重なご意思であることに変わりはない。

     その方法として、脳幹反射が概ね消失し活動脳波を認めない患者さんについてはそのご家族に「移植医療に関する情報提供」のみを行い、さらに移植医療に詳しい人からの話を聞いてみても良いというご家族には院外のコーディネーターと面談していただき、その後にコーディネーターとの間で適応基準などの一切の話をしていただいている。これをできる限りルーチン化する工夫はあっても良いと考えている。

     一方で、脳死判定は循環の状態が許す状況でないと行えない。また、脳死とされうる状態にある患者さんは年齢や病態により差はあるものの比較的短期間のうちに循環不全に陥る。集中治療の技術により循環維持は可能な場面が多いが、対して神経予後が悪いと考えられる症例においては、現実的には緩和的な治療方針がとられ循環維持に必ずしも積極的にはならない場合が多い。臓器提供をご希望になったときには臓器提供が考えられない循環動態に進行している、ということがないようにするために、ご家族が検討されている間にはご説明を行った上で循環維持を行うことが現実的ではないかと思われる。臓器・組織提供の意思があれば活かせるように想定し準備しておくことが重要である。

  • 小野 稔
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s138_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    わが国の脳死臓器移植は、メディカルコンサルタント(MC)制度が有効に機能して、マージナルドナーを含めて極めて高い臓器提供率を達成してきた。移植医療の経験の豊富な外科医や内科医がドナーの全身状態および臓器機能を評価することによって、提供される臓器の高い安全性と信頼感を担保することが可能となっている。現在、来るべき脳死臓器提供の増加に対応するために、また移植に従事する医療者の負担軽減の観点から、提供病院あるいはその近隣施設の専門医のMC業務への参画が計画されている。これに対応すべく、すでにマニュアルも整備されている。今後臓器提供数が大幅に増加することがあっても、MC業務によって提供される臓器の安全性と信頼性を可能な限り高めることは、わが国の優れた移植成績の維持を可能とするとともに、摘出臓器の廃棄を回避することにつながる。また、これからのMC業務には従来からのMCである移植医療者と提供病院や近隣の専門医の緊密な協力体制が不可欠になるものと考えられる。

  • 中尾 篤典
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s138_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    岡山大学病院では、2017年から2022年までの5年間で、3例の小児ドナーを含む16例の脳死下臓器提供を行ってきた。脳死とされうる状態と診断した症例は40例、頚髄損傷など医学的理由で臓器提供の選択肢提示を行わなかった8例をのぞく32例に選択肢提示を行い、半数にあたる16例が臓器提供に至った。選択肢提示を行った症例のうち、意思表示を書面で行っていたのはわずか2例であった。臓器提供は、終末期における看取りの一つの方法にすぎないことは認識されているが、実際には神経学的予後が期待できない場合には、延命治療の中止の選択肢しか提示されない場合が多い。臓器提供を行うか否かを決めるのは医療者ではない。決定するのは患者であり患者家族である。臓器提供数が欧米と比較して本邦で少ないのは、文化や死生観の違いのためではなく、医療者の努力不足・認識不足に起因している。臓器提供は患者の権利であり、必ず選択肢提示は行わなくてはならない。

    岡山大学病院の取り組みは、何も特別ではない。医療者が全力で救命を行うことが大原則であり、不幸にも脳死とされうる状態と判定した場合でも、家族が「終末期」の受け入れをするまでは臓器提供の話題は出さないようにしている。選択肢提示の適切なタイミングは、看護師を含めた多職種カンファレンスで検討する。選択肢提示での医療者の役割は、家族「が」方針を決めるのではなく、患者の意思を家族「で」汲み取るようにサポートするだけである。重症救急患者の適切な搬送先について、消防と連携することも重要であるが、もっとも必要なことは医療者の教育であり、欧米の真似事ではなく日本文化にあわせたドナーアクションが求められる。

  • 明石 優美, 朝居 朋子, 剣持 敬
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s139_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    移植医療、すなわち臓器・組織提供、臓器・組織移植の実施には移植コーディネーター(以下Co)の存在が必須である。課題の一つとして移植Coの量的・質的不足があげられるが、質的向上には多様な状況に対応する能力、その基礎となる「移植コーディネーション学」を習得する事が必要と考える。

    本学では、2016年4月、藤田医科大学大学院保健学研究科看護学領域臓器移植コーディネート分野を全国に先駆け開講し、「移植コーディネーション学」習得の為のプログラムを作成した。医療現場では専門職の細分化が進んでいる現状があり、移植Coの役割としてチーム医療遂行の為の相互理解と連携が重要である。

    基礎的知識として、医学・看護学的知識、法律・倫理的知識等を体系的に履修した後、臓器・組織移植の各専門領域、関連領域における最新の知見や理論を学ぶ。これらを土台とし、演習・実習を通し、臓器・組織移植コーディネーションの臨床実践能力を修得する。これまでに13名が学位を取得し、医療施設にて高度専門職業人、指導的人材として活躍している。

    学問としての「移植コーディネーション学」とは、基礎的・専門的知識に裏付けられた高度な学力をコーディネーションに適切に応用する実践力を身につける事である。

    「移植コーディネーション学」の確立は、Coの質の向上・標準化、Coの資格化の推進、ひいては移植医療の質向上と発展につながる。大学院教育について報告し、今後の展望を述べる。

  • 習田 明裕
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s139_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     移植医療が一般の治療として定着し、看護もその中心において移植看護を提供する役割を担っている。しかし、移植看護教育を概観すると、基礎教育においては未だマイナーな医療として認識され、一部腎移植を除き殆教育がなされておらず、さらに本邦の移植看護教育に提言をもたらすような研究は、国内外を問わず散見される程度である。こうした状況から、移植看護の実践能力向上を目指した教育プログラムの開発は急務なことである。こうした観点から、日本移植・再生医療看護学会の教育委員会では、移植看護教育に関する実態と今後求められる移植看護教育について、学術的観点から探索を行ってきた。前者については「わが国の看護系大学における移植に関する教育の実態」(添田他,2018)として、移植に関する基礎教育の講義内容の実態や教育上抱えている困難を明らかにした。また後者については「移植看護教育の実態とニーズに関する研究―移植看護教育のコア・カテゴリー抽出の試み―」(習田他、2020)として、基礎教育や継続教育の内容の実態やニーズとの乖離、さらに必要度の高い単元から探索的因子分析を行い、移植看護のコア・カテゴリーを抽出してきた。

     本シンポジウムのテーマである「移植看護学を創生」していく上で、上記研究の知見が少しでも役立ち、抽出されたコア・カテゴリーが移植看護教育のシーズとなり、移植看護教育を育む一助となることを願い、研究結果の概要を報告をさせて頂く。

  • 村上 穣
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s140_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【はじめに】演者は2011年に腎移植を受けた腎臓内科医で、腎移植患者さんと共に医療系学生や看護師を対象とする臓器移植教育に携わってきた。

    【背景】医療系学生の卒前教育で実施される臓器提供および移植の講義は必ずしも十分ではない。当院看護師を対象とした調査で、67.3%は臓器移植について系統的に学習しなかったと回答するなど教育上の課題が残されている。

    【教育プログラム】2012年に看護学生および医学生を対象に腎臓内科医と腎移植患者さんによる卒前教育プログラムを作成した。目的は、臓器移植について正しい知識を身につけ、移植医療の在り方を考えてもらうことである。プログラムは、1)医師による臓器移植の系統的講義、2)腎移植患者さんによる体験談、3)グループワーク、4)振り返り、から成り、所要時間は90分または180分である。

    【教育プログラムの効果】臓器提供の意思表示をしていない看護学生を対象にランダム化比較試験を実施した(教育プログラム群102名、資料群101名)。プログラム群の7名(7%)、資料群の1名(1%)が臓器提供の意思表示をした(リスク比 6.9 [95%信頼区間 0.9-55.3])。しかし、学生の家族による臓器提供の意思表示(12% vs. 2%; 6.0 [1.4-25.9])、家族との相談(31% vs. 16%; 2.0 [1.2-3.4])、臓器提供の知識については両群間に有意差が認められた。

    【まとめ】腎臓内科医と腎移植患者さんによる臓器移植の教育プログラムは、臓器移植に関する看護学生の知識が増加するだけでなく、その啓発にも有効であった。移植看護学確立のためには患者参画による卒前教育も考慮する必要があるのではないかと考えられた。

  • 西島 真知子, 近藤 奨司, 緒方 裕士, 日隈 香澄, 日比 泰造, 渡邉 玲子
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s140_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    日本の肝移植は生体ドナーが大多数を占め、患者が2人となる特徴を有する。我々の570件超の経験から、移植看護の理想を議論する。生体肝移植レシピエントでは、親族から臓器提供を受ける点を鑑み術前より身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな側面から意思決定を含めた支援を行う。移植後急性期では高率な合併症を早期に発見・対処し、回復期では大量腹水や浮腫、創痛などが長期化し「こんなはずじゃなかった」と発言する患者も少なくなく、傾聴し支援する。また生涯にわたる免疫抑制状態を理解し自己管理能力を習得してウェルビーイングを確立する遠隔期看護に加え、昨今の家族関係の複雑化・脆弱化に根ざしたきめ細なか生活指導を要する。さらに近年の疾病構造の変化に伴いレシピエントの高齢化、サルコペニア、生活習慣病やアルコール依存など精神疾患を抱えた症例が急増しており、看護師が移植チームの中心で関連専門職と連携する役割をも期待される。生体ドナーでは、レシピエントと同じく様々な側面からの支援に加え、健常人が大侵襲手術を受けて患者となる特殊性や、レシピエントの経過がドナーの精神面に与える影響などを勘案した重層的な看護が要求され、早期の社会復帰を果たす援助が目標となる。生体肝移植に携わる看護師は、2人の患者を含む家族を包括的に捉え、深い信頼関係を築き、客観的で定量的な短期目標を患者・家族と共に立案し達成する看護観の醸成が望まれる。

  • 添田 英津子
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s141_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     移植医療が他の治療と異なる点は、移植を受けるには提供者から臓器/組織をいただかなければならないということである。それは、移植とは人と人との関係で成り立つという必然的に感情的な治療であるということを意味する。患者にとっては、移植を受けるか受けないかという決断は、自らの生命について考えるだけではなく、人と人とのきずなについても考えることになる。患者は、いつ訪れるかわからない死を意識しながら、孤独に悩むのである。

     一方、提供者とその家族がいる。病気や突然の事故で脳死状態になり、生前の意思のもとに臓器を提供する脳死ドナーや、家族のために臓器あるいは臓器の一部を提供する生体ドナー、また、自らも移植を受けつつ、ほかの誰かへ臓器を提供するドミノ移植の生体ドナーもいる。愛するものの死や病気という最悪の状況のなかで、誰かの喜ぶ顔がみたいというまったくの善意によって臓器提供が成り立つのである。

     「移植看護学」とは、移植を必要とする患者の移植を「受ける権利」「受けない権利」、あるいは、自らの臓器/組織を「提供する権利」と「提供しない権利」という、移植に関する四つの権利を守るため、看護とコーディネーションについて実践的に研究する学問であると、私は考える。

  • 小坂 志保
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s141_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     本邦の慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease: CKD)患者は成人国民の約13%にあたり、糖尿病や高血圧と並びまさに国民病といえる。CKDが悪化し末期腎不全に陥った際には、腎代替療法選択が必要となり、血液透析・腹膜透析・腎移植の3つの選択肢がある。この中で年間導入数が最も多いのは、血液透析であり約32000人程度だが、腎移植もここ数年年間導入数の件数を伸ばし献腎移植・生体移植を合わせると2000件を超えてきており増加の一途を辿っているため、今後さらに腎臓病看護を行っていくにあたり腎移植の知識やエビデンスの集積は必須のものになると考えられる。

     腎移植看護の実践においては、レシピエント移植コーディネーターを中心として様々な取り組みがなされているが、現状では実践にとどまり彼らの介入によるアウトカムを成果として創出している状況にはない。加えて、腎移植看護が学問として確立しているかというと、本邦においては未だ成し遂げられていないのが現状であり、腎移植看護の研究者も少数である。そのため、実践知・経験知による臨床は行われているがEvidence Based Practice(EBP)の実践には弱さがあるのが事実である。

     2022年5月に日本腎不全看護学会よりEBPに基づく腎移植看護を実践するために腎移植ケアガイドが発刊された。腎移植の医学的知識のみならず、腎移植看護における重要なClinical Questionを抽出し国内外の文献レビューから推奨文・解説を掲載している。今後はこれを足掛かりに、腎移植看護を学問として体系化するためにより多くのエビデンスの創出が求められる。今回は国内外の腎移植看護の研究をレビューし現状と、今後の展望について検討する。

  • 吉川 美喜子, 山口 昴久
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s142_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症蔓延下の令和2年度の脳死下・心停止後臓器提供数は平成14年度以来の低水準であった。一方で、特に心臓、肺、腎臓、眼球の移植希望登録患者数は令和二年度以降顕著に増加しており、臓器提供数減少に反し臓器移植の需要の増加がうかがわれる。コロナ禍の臓器提供・移植に係る研究事業として「新型コロナウイルス感染症流行時に移植実施施設において脳死下・心停止下臓器移植医療を維持推進するための調査研究と提言(伊藤班)」「コロナ禍における脳死下・心停止下臓器提供経験施設の実態調査に基づく臓器提供施設の新たな体制構築に資する研究(小野班)」「新型コロナウイルス感染症患者増加に伴う社会情勢下において、安心安全に生体肝・腎移植を継続するための診療体制構築を目指した研究(蔵満班)」で臓器提供・移植の遂行を阻害する因子やその対策を提言いただいた。これらは次なるパンデミックの備えになるのみならず、アフターコロナの移植医療構築の礎ともいえる。コロナ禍を経て今後の移植医療の方針について概説する。

  • 蛭子 洋介
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s142_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    COVID-19の流行により日本を含む各国の移植医療は大打撃を受けたが、この2年間でCOVID-19の診断、治療、そして感染管理についての知見が蓄積された。診断ではSARS-CoV-2核酸増幅検査を使ったプロトコールが整理され、治療では抗ウイルス薬、抗炎症薬、抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体などが使われるようになり、さらにはワクチンの開発によってCOVID-19の予防が可能になった。これらの進歩によってCOVID-19の感染者数は減少している。日本移植学会 COVID-19対策委員会ではアップデートされる情報を元に「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の移植医療における基本指針」を発表し、日本における移植患者のCOVID-19の対応策を示してきた。しかし、一部のモノクローナル抗体が効かない変異株の出現に加えて、移植患者に特有の問題である免疫抑制剤と抗ウイルス薬の相互作用や免疫抑制剤によるワクチン予防効果の低下など非移植患者と比べると解決すべき課題は多く、いまだに予断を許さない状況である。この状況下において安全に臓器提供を行い、臓器移植を続けていくためにできることについて議論する。 

  • 川名 伸一, 杉本 誠一郎, 田中 真, 三好 健太郎, 氏家 裕征, 久保 友次郎, 清水 大, 松原 慧, 橋本 好平, 諏澤 憲, 枝 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s143_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    COVID-19流行初期の報告によると,肺移植患者に発症したCOVID-19の重症化率は約30%と一般集団よりも高く,致死率も10-40%と予後不良である.当院で肺移植後フォロー中にCOVID-19と診断された3例を報告する.【症例1】39歳男性.脳死右肺移植後10年.COVID-19流行第Ⅲ波の際に濃厚接触者となり,軽度の咳嗽を認めPCR検査で陽性と診断された.入院後にシクレソニド吸入とPSLの増量で加療され,8日後に退院した.1ヶ月後に発熱と咳嗽,右肺の広範なスリガラス影を認めたため再入院し,ステロイドパルス療法により改善した.COVID-19罹患後の急性拒絶反応が疑われる症例であった.【症例2】53歳女性.脳死両肺移植後3年半.第V波の際に発熱と下痢,嗅覚・味覚障害を認めCOVID-19と診断された.入院後,MMFの中止とレムデシビル投与,カシリビマブ/イムデビマブによる中和抗体療法により軽快したため14日後に退院した.【症例3】45歳男性.米国での脳死両肺移植後27年.慢性移植肺機能不全で加療中,第V波の際に妻がCOVID-19に罹患したため,PCR検査を施行され陽性と診断された.入院後に中和抗体療法を施行され10日後に退院した.症例2と3では,COVID-19軽快後の呼吸機能低下や画像上の変化は認められなかった.肺移植後のCOVID-19でも早期診断と早期治療により良好な予後が期待できるため,文献的考察を加えて報告する.

  • 上條 祐司, 岩渕 良平, 原田 真, 橋本 幸始, 皆川 倫範, 小川 輝之, 石塚 修
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s143_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【目的】腎移植患者および透析患者におけるCOVID-19ワクチン接種後の抗体獲得率、抗体価、抗体価推移、また抗体価関連因子を調査した。

    【方法】COVID-19 mRNAワクチンを二回接種している健常者、血液透析(HD)患者、腹膜透析(PD)患者、腎移植(KT)患者を対象にした。

    【結果】ワクチン接種3か月後と6か月後の抗体獲得率と抗体価の推移は、健常者で抗体獲得率100→100%、抗体価中央値(範囲)4,970(474-27,800)→1164(218-3,320)AU/mL、HD患者(N=80)で抗体獲得率98.8→96.6%、抗体価935(7.7-37,100)→332(6.8-3,260)AU/mL, PD患者(N=21)で抗体獲得率95.2→89.5%、抗体価569(6.8-7,290)→214(6.8-2,570)AU/mL、KT患者(N=39)で抗体獲得率61.5→58.3%、抗体価97(6.8-2,380)→119(6.8-1,110)AU/mLであった。健常者の最低抗体価まで達しない不十分抗体獲得患者の割合は、HD患者 25%、PD患者38%、KT患者77%であった。不十分抗体獲得に関わる因子は、HD患者で血中リンパ球数の減少、PD患者では血清蛋白、Albの減少、KT患者では高年齢、低い血清Cre値の関与が抽出された。

    【結論】KT患者はワクチン接種の臨床的意義が低い集団である可能性がある。感染時には積極的な抗ウイルス薬や抗体製剤治療が必要と思われる。

  • 円城寺 貴浩, 曽山 明彦, 福本 将之, Li Pelin, 松本 亮, 今村 一歩, 松島 肇, 原 貴信, 足立 智彦, 日高 匡章, ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s144_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】移植医療において良好な治療成績を得るためには、摘出臓器の搬送のための最適なロジスティクスを計画することが重要なプロセスの一つである。最近、北米から、ドローンにより搬送された臓器を用いた移植の成功例が報告された。ドローンを用いることで公共交通機関やチャーター便への円滑な接続による搬送時間の短縮や移動に伴う移植チームのリスク低減につながる可能性がある。一方、ドローン搬送による移植用臓器への影響についてはいまだ不明な点がある。【目的】動物モデルから摘出した臓器をドローンにより搬送し、臓器への影響を明らかにする。【方法】Wisterラット12匹(8週齢6匹、28週齢6匹)の肝臓を摘出後に2分割し、Drone群(n=12 肝重量 5.6±1.31g)とControl群(n=12 肝重量 12.0±3.14g)を設定。ドローン実験は五島列島の福江島-久賀島間(距離12km)で実施。Drone群は時速30-40kmのマルチコプター型ドローンで海上60mを飛行し搬送、Control群は船及び車で搬送。検体を長崎大学に持ち帰り、生化学的・組織学的評価を施行。【結果】保冷容器内温度は搬送方法に関わらず一定であった。冷虚血時間はDrone群902分vs. Control群 909分。肉眼的所見では色調に差はなく、両者ともに明らかな損傷は認めなかった。保存液検体中のAST(27.0vs55.18 IU/L p<0.01)、ALT(17.9vs33.0 IU/L p=0.02)、ALP(236vs443 IU/L p=0.01)はDrone群で有意に数値が低かった。組織学的検査では肝障害の程度は両群に明らかな差を認めなかった。【結語】本邦初のドローンによる移植用臓器搬送のシミュレーション実験を行った。生化学的・組織学的評価によりドローン搬送での有意な障害は無いと考えられ、今後、臨床での実施可能性も含めて検討を重ねたい。

  • 富田 祐介, 滝口 進也, 上原 咲恵子, 中村 道郎
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s144_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    移植患者は終生にわたる免疫抑制剤の内服が必須であり、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症のハイリスク群に属する。今回、腎移植レシピエントに対するmRNA SARS-CoV-2ワクチン療法の安全性、有効性について宿主における免疫学的変化の側面から検討し、将来の臓器移植のあり方について考察した。初めに体調管理表を集計し、安全性について健常者と比較したところ注射部の局所症状、全身症状ともに副反応の頻度が低いことが示された(P<.001)。特に発熱の頻度は低く、宿主内の免疫反応が抑制されていることを示唆する結果であった。次に血清中の抗体陽性率、抗体価を測定した。健常者、透析患者のS-RBDに対するIgG抗体の陽性率は100%であったのに対し、腎移植レシピエントでは26.6%と有意に低値であり(P<.001)、移植後のワクチン接種における液性免疫応答は乏しいことが示された。最後に細胞性免疫応答についてワクチンの接種前後に採取した全血から末梢血単核球を分離し、フローサイトメトリーで解析した。接種後、健常者で活性化T細胞が増加傾向を示し (P<0.01)、特にDR+CD8+ T cells (P=.042), PD1+CD8+ T cells (P=.027)が顕著であった。一方で、腎移植レシピエントはワクチンの接種による末梢血単核球の影響は少なかった。この期間を通して拒絶反応は一例も認めず、安全性は高いことが示された。以上の結果より、移植後のレシピエントの宿主免疫は制御されており、少なくとも移植前の段階でmRNA SARS-CoV-2ワクチンの接種を終え、抗体を獲得しておくことが必須であると考えられた。

  • 木下 修
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s145_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     近年、脳死ドナーからの臓器採取手術において、腹部臓器領域では互助制度が活用され始めているが、胸部臓器領域ではほとんどの症例で移植実施施設から人員派遣と全ての器材・薬剤を持ち込む従来通りの体制で行われている。心臓ドナーの評価では、経験ある心臓外科医による術中の視触診が非常に重要であるため、他施設チームにドナー手術を完全には任せにくいことが一つの大きな理由である。しかしそれは移植実施施設から判断できる立場で心臓外科医が1人赴けば解決する。また、心臓ドナーとして良好な状態であれば、そのような微妙な判断は必要ないこともある。摘出に必要な人手や器材、薬剤・消耗品などをドナー病院や他の近隣移植実施施設から提供頂いてドナー手術を行うことができれば、それは互助制度の活用と言ってよいものだが、重く多量の器材・薬剤・消耗品を長距離・長時間運ぶことを避けられ、経済的にも労務負担的にも有用である。

     心臓ドナー手術で互助制度を活用できるようにするために必要なことは、①手術手技の標準化 ②使用器材の標準化 ③灌流液・保存液の標準化および一元管理 ④パッキング方法の標準化 ⑤搬送容器・搬送法の標準化・省エネ化 ⑥費用配分・費用負担の取り決め、である。本発表ではこれらについて述べる。

  • 星川 康, 芳川 豊史
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s145_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    本学会ホームページ上で提示されている脳死下肺摘出術のオリジナル版は、2011年3〜5月当時の肺移植実施7施設に対してアンケート調査を行い、慎重なメール審議とコンセンサス形成を経て、全施設の相違点を包括するものが作成された。本邦の肺摘出術の初めての標準化プロセスであった。

    2021年4〜6月共同演者の芳川豊史先生(本学会脳死・心停止下リカバリー環境改善委員会委員)が中心となり、日本肺および心肺移植研究会を通じて、肺移植実施10施設に「臓器搬送における手順標準化に向けたアンケート調査」を行い、慎重なメール審議の上、改訂がなされた。特に逆行性灌流に関して、従来の摘出後バックテーブルで行うものから術野で行う形に変更した施設が増えていたため、従来法と併記する形で加筆がなされた。事前に腹部チームとコンセンサスを得ること、呼吸循環管理医・日本臓器移植ネットワークコーディネーターと情報共有することも強調されている。この他、現状に合致させるよう複数の意見が出され、この過程で多施設間相互の手技の再確認、標準化が改めてなされた。

    臓器摘出・搬送の互助制度に関しては、2018年1〜2月日本肺および心肺移植研究会による肺移植実施9施設に対するアンケート調査の結果、肺移植では時期尚早と判断し、腹部臓器の状況をオブザーブする方針となっている。

    脳死下肺摘出・搬送法標準化の現状を提示し、今後の課題を議論したい。

  • 笠原 群生, 阪本 靖介, 福田 晃也, 内田 孟, 清水 誠一, 岡田 憲樹, 中尾 俊雅, 兒玉 匡, 小峰 竜二, 平野 加奈子, 上 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s146_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【はじめに】移植学会では、提供施設の近隣の移植施設から摘出チームを提供施設に送り、実施施設の移植医の負担軽減を目的とした互助制度を取り入れている。また、現在の新型コロナウイルス感染・医師の働き方軽減の社会情勢を受け、移動を最小限にするためにもこの制度を推進している。

    【対象】今回われわれは、互助制度導入後である2020年1月から当院で経験した20事例の脳死肝移植から、互助制度について検討した。なお、当センターは3名の指導医、3名の医員、2名のレジデントで肝・腎・小腸の小児移植のドナー・レシピエント全手術を行っている。

    【結果】制度導入後の20事例中25%の5事例に互助制度が導入されていた。また、20事例中1事例は肝臓摘出、分割まで当院で行い、他施設に分割肝を搬送する事例であった。互助理由は全例で労働力不足であった。労働力不足の原因としては、ドナー摘出手術、レシピエント手術が平日であり日常業務調整が困難であったこと、自施設でレシピエント2例の手術を同時で行わなければならないことが挙げられた。全事例でドナー摘出からレシピエント終了までに大きなトラブルは認められなかった。

    【結語】術当日の人員不足が想定される中でも、互助制度を利用することで円滑かつ安全に脳死肝移植を遂行することができた。費用負担や責任の所在等、互助件数が増加する中で浮き彫りになっていく課題に対し、明確な指針を策定することが今後の課題である。

  • 伊藤 泰平, 剣持 敬, 栗原 啓, 會田 直弘
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s146_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    2010年の改正臓器移植法施行以降、徐々に脳死ドナーが増加する一方、膵腎同時移植を行う事例は徐々に減少しており、2018、2019年は、脳死ドナー当たりの膵腎同時移植実施例はそれぞれ50%であった。したがって、30-40例/年ほどの脳死ドナーからの腎単独採取が行われている。また、2018、2019年で15例は腹部臓器採取が腎のみであり、さらにうち2例は胸部臓器採取もなく、腎採取のみであった。これらの事例では、腎チームのみによる腹部操作、カニュレーションが求められ、特に胸部臓器採取がなかった2例に関しては、脳死ドナー臓器採取を腎チームのみで完結しなくてはならない。

    このように、脳死下臓器提供においては、胸部臓器摘出の有無、肝摘出の有無、膵摘出の有無によって、様々なバラエティのシチュエーションに対応できる膵・腎摘出技術が求められる。

    一方、国内のCOVID-19感染流行に伴い、脳死下臓器提供は2019年の97件から2020年68件、2021年69件と減少に転じている。脳死下臓器提供件数の減少は、本邦における臓器不足問題がさらに悪化するのみならず、摘出医の技術習得向上の大きな妨げとなる。摘出医の技術習得向上の観点からも、COVID-19感染流行に伴い互助制度がより活発に利用されている状況からも、脳死下臓器摘出の標準化は必須であると考えられる。

    脳死下膵・腎摘出における標準化について論じる。

  • 曽山 明彦
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s147_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    臓器移植において良好な治療結果を得るために、臓器摘出手術から臓器パッキング、搬送に至るまで、適切かつ円滑に実施されることが重要である。腹部臓器領域では以前より、臓器摘出手術における施設間協力、いわゆる互助制度が行われてきた。COVID19の影響、働き方改革などの観点から、今後、摘出手術における施設間協力の重要性は更に高まることが考えられる。日本移植学会では以前より大動物(ブタ)を用いた胸部腹部合同の臓器摘出手術ハンズオンセミナーを開催してきた。COVID-19の感染拡大により、2021年はWebセミナーとして開催したが、2022年3月のセミナーは3年ぶりに実地開催した。ハンズオントレーニングは、ブタ1頭を用いて、胸部領域(心・肺)、腹部領域(肝・膵・腎)合同での摘出手術を行う。大動脈カニュレーション等の還流準備から摘出までの工程をパート毎に分けて交代で担当する。合同で行うことにより、担当臓器の摘出手技に加えて、臓器摘出手術全体の流れ、領域間、臓器間の協力の重要性を学ぶことができる。セミナーでは摘出手術の実際の他、臓器摘出後のパッキングについても講義や資料配布を行っている。施設間協力による臓器摘出は、共通認識に基づいた信頼関係のもとに成立するものであり、教育の役割は非常に重要である。ヨーロッパにおいてはハンズオントレーニングやeラーニングによる教育の履修を条件とした臓器摘出手術の認定制度が確立しており、本邦における教育システムのあり方や将来の認定制度についてもアカデミアにおける領域・臓器横断的な検討を行うことは重要と考えられる。

  • 栗原 啓, 剣持 敬, 伊藤 泰平, 會田 直弘, 江川 裕人, 日下 守
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s147_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    [背景]

    通常の冷凍庫は-20℃に設定されており、臓器周囲の氷の直接接触によってUW液が氷結、臓器が凍結損傷を受ける可能性があることには留意しなくてはならない。実際に搬送時の低温暴露によりグラフト肝が凍結損傷を起こした報告がある。そのため、2021年7月に日本移植学会から臓器凍結損傷予防のための臓器搬送のパッキング標準プロトコールが公開された。その科学的妥当性について検証を行った。

    [方法]

    ウシ肝臓をUW液に浸漬、3重梱包のみでパッキングした群(対照群)と日本移植学会の標準プロトコール(3重梱包2層目へ乳酸リンゲル液1000ml充填)でパッキングを行った群(標準パッケージ群)の2群で冷保存を行った。パッキングされた臓器周囲は-20℃と-80℃の氷を使用し、グラフト表面温度、組織学的評価を行った。

    [結果]

    -80℃の氷では対照群と標準パッケージ群ともに臓器表面は-0.7℃以下となり、UW液と臓器は肉眼的に氷結した。一方-20℃の場合、対照群では臓器の肉眼的氷結と組織学的変化を認めたが、標準パッケージ群ではUW液の温度は氷点の-0.7℃を下回ることなくUW液、乳酸リンゲル液、臓器表面のいずれにも氷結は認められなかった。病理組織学的にも正常構造を保ち良好な保存状態が維持できた。

    [結語]

    日本移植学会のパッキング標準プロトコールを用いることにより、UW液、搬送臓器の氷結が予防され、安全な移植医療の提供に寄与できるものと考える。

  • 福田 晃也, 小峰 竜二, 兒玉 匡, 中尾 俊雅, 岡田 憲樹, 清水 誠一, 内田 孟, 阪本 靖介, 笠原 群生
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s148_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    移植医療をはじめて受けることになる患者・家族にとって,移植医療者からうける説明を限られた時間で理解することは困難な場合が多い.また,移植医療者の立場からすると,患者・家族にリスクの高い移植医療をよりよく理解してもらうために,インフォームド・コンセントに多くの時間を費やす必要がある.そこで,診断時間の質の向上と,医師の負担軽減を目的として,医師から患者・家族への説明を効率的に行うためにAIで活用し,わからなかった点や,もう少し聞きたい点を事前に医師に伝えることで,聞きたい点を重点的に医師との面談で話すことを目指した取り組みに関して現状と展望について報告いたします.

  • 伊藤 孝司, 楊 友明, 穴澤 貴之, 政野 裕紀, 奥村 晋也, 白井 久也, 影山 詔一, 内田 洋一朗, 秦 浩一郎, 波多野 悦朗
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s148_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    2024年4月から医師の時間外労働規則が開始さ予定であり、当院では時短計画案の作成や医療機関勤務環境評価センターによる第三者機関審査の準備を開始している。当科でも医師の働き方改革を開始したが、移植外科医がどのように働き方を変える必要があるかを検討した。

    2022年6月時点で臨床勤務している医師が約20名在籍しており、手術、病棟・外来診療を担っている。手術件数は昨年度年間約400件で高難度肝胆膵手術が約250件(うち肝移植約50件)を行っている。また緊急手術や肝移植後の術後管理にも勤務時間を割くことが多い。当科での働き方改革として取り組んでいることは、①当直翌日は午後から休息、②脳死ドナー摘出後は翌日まで休息、③人員配置や業務内容の見直し、④⑱時以降は当直医に任せる等を開始している。しかし、高難度手術は肝胆膵高度技能医の件数に入り外科には手術件数も確保しなければならない。

     脳死下臓器摘出の互助制度では、派遣医師の人数を減らし負担を減らすことができ、有効利用できると考えている。しかし、医師の労働費、ドナー臓器摘出料の費用配分や手術器械・消耗品の費用配分など、まだまだ不確実な部分も多く制度設計が必要不可欠である。今回の検討では当科での移植に携わる外科医の働き方改革の取り組みと、互助制度の課題や解決方法を考える。

  • 石田 英樹, 岡田 克典, 江川 裕人
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s149_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    心停止後の臓器移植は本邦では腎臓のみに限られるが、脳死下臓器摘出時の勤務実態調査と同様のアンケートを配布し、脳死下および心停止後における勤務実態などの相違を比較検討した。対象は日本移植学会の働き方改革委員会がアンケートを行った340名の学会員(医師)である。

    脳死下臓器摘出ではスケジュール通りにタイムテーブルが動く場面が多く短時間にマネ-ジメントが終結する一方、死の終末期を迎え臓器摘出に至る心停止後臓器摘出の場合はさまざまな状況が想定されるため、臓器摘出までに至るマネ-ジメントの拘束時間も時に2日~3日以上かかる場合も少なくなかった。この一連のマネ-ジメントの後に摘出手術を続けて行う医師は全体の回答者の過半数をはるかに超えた。この傾向は脳死下摘出も心停止後摘出も同様であった。摘出を終えた後に移植や他の職務へ向かうインタ-バルについてのアンケートを行った。実際には約80%の医師が臓器摘出後に移植手術に入ったり他の業務を遂行したり休憩することなしに働き続けていた。臓器摘出にかかった拘束時間は交通時間も含め、脳死下での臓器摘出、および、心停止後の臓器摘出ともに12~24時間以内であった。心停止後の臓器摘出では予想外に心停止までの時間がかかり、2~3日ほど摘出に時間を要したケースも散見される。

    マンパワー的にも数少ない移植外科医は臓器提供の情報があるかなり早期の段階から始動し、長時間にわたって過酷な労働を余儀なくされているようである。

  • 高橋 剛史, Patterson G. Alexander, Puri Varun, Kreisel Daniel
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s149_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】脳死移植は平時業務と同時並行で行われ、手術は時間外に開始されることが多い。手術終了後は術後管理が待っており過酷である。私が従事する米国でも移植医療の環境は厳しいが、改善のために工夫がなされており、紹介したい。

    【内容】私が勤務するワシントン大学は米国で初の肺移植が行われ、年間70から100件の肺移植が行われるhigh volume プログラムである。我々の施設ではprocurement surgeonが1人おり、ドナー肺手術を専門に行う。次に、米国初、2001年設立のドナー特化施設である Mid-America Transplant(MTS)を紹介する。全てのlocalドナー手術が行われ、手術開始時間は柔軟に対応可能で、効率的な運営がなされている。また、ワシントン大学では2022年より、トロント大学で開発、冷蔵庫内を10度に設定、肺機能を障害せずに保存を可能にした臓器保存用冷蔵庫を導入した。日中のレシピエント手術を可能にした。レシピエント側では手術の効率化がある。胸部外科専門の手術室フロアを有し、麻酔科、看護師皆胸部外科手術に精通している。肺移植手術のプロセスは定型化され、吻合方法は気管支、肺動脈、肺静脈全て同じ方法で、両側肺移植は4から6時間以内に終了する。最後に、ワシントン大学では移植の各局面において中心となる科、職種が異なる。術前、術後の外来はpulmonologistが、術直後の管理はICU physician が中心となる。これらの協力体制により外科医は手術に専念することが可能となる。

    【結語】我々の施設では労働環境改善のために工夫がなされている。医療や法制度の違い、人的財政的制限により日本での導入は困難かもしれないが、参考になれば幸いである。

  • 谷口 未佳子, 剣持 敬, 伊藤 美樹, 伊藤 泰平, 會田 直弘, 栗原 啓
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s150_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    移植医療は患者への移植説明から始まり、臓器摘出、移植手術、長期経過観察と多岐にわたる。緊急呼び出し対応も担う移植スタッフは、長時間労働となることもあり労務負荷は非常に高いといえる。移植医療は、他の医療と異なり緊急性があり予定が立たないため、働き方改革の推進が難しい分野である。レシピエント移植コーディネーター(以下RTC)は、患者への情報提供や意思決定支援、長期継続支援、院内外への連絡・調整に加え、各学会への患者データの登録や臓器移植ネットワークへの新規登録・更新業務、緊急呼び出しへの対応など様々な業務を担っている。これらの業務をRTCが1人で行うことは負荷が高く、働き方改革を推進するにはRTCの増員と業務のタスクシフトが必要不可欠である。RTCが複数名存在することで業務分担や長時間勤務を軽減することが可能となるが、RTCを増員するには組織の移植医療への理解が必要であり、看護部を含め病院全体の移植医療への認識を高めることが重要である。また、業務のタスクシフトを推進するためには、多職種との連携が必要である。

    当院では、RTC6名、ドナーコーディネーター13名が配置され、移植医療の普及啓発活動を行うとともに、定例会やセミナー開催など、多職種との連携強化を図っている。

    移植医療に携わるスタッフが燃え尽きないために、業務のタスクシフトなど労務環境を整えること、移植スタッフの増員は喫緊の課題であると考えている。

  • 堀 由美子, 有薗 礼佳, 永井 孝明, 塚本 泰正
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s150_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    レシピエント移植コーディネーター(RTC)の業務は大きく分けて週間業務と緊急対応のドナー情報がある。ドナー情報時は、週間業務に加えドナー情報対応の調整が必要となる。今回当院の現状から心臓RTCの働き方の課題を検討する。

    1.週間業務における課題:当院のRTCは3名(専従)である。2016年遅出勤務を導入により時間外勤務の削減が得られ、2018年にチームナーシング(成人・小児・外来)導入により看護の質の確保に繋がった。一方で待機患者数の増加、待機期間の長期化に伴い、チーム内での共有・検討が必要な身体的社会的問題を有する事例の増加し、時間外勤務の一因となっている。

    2.ドナー情報対応における課題:2019年1月~2022年5月のドナー情報は105件(移植41件)であった。移植に至らなかった64件の内訳は、上位受諾、体格差、年齢、心機能であった。ダイレクトクロスマッチ再検査を要する上位受諾者のバックアップ候補(入院、検査、I.C、摘出チーム派遣準備等調整を要する)9件、心機能による辞退事例5件(平均EF40.4±6.5%、心臓原疾患:重症不整脈、心筋梗塞等)あった。いずれも調整業務を要したがバックアップは上位受諾、辞退例はあっせん中止となった。今後臓器提供増加を見据えた働き方改革を遂行する上でバックアップレシピエント候補選定の体制整備や低心機能ドナーのあっせん方法検討等が必要と考える。

  • 稲葉 伸之
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s151_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    都道府県移植コーディネーター(以下都道府県Co)は、財団や病院、県庁など雇用先が異なり、勤務状態も常勤や非常勤、専任や兼任と様々で、多くは一名体制である。業務は、症例対応、提供病院の院内体制整備支援や、院内コーディネーターの教育、一般普及啓発など多岐にわたる。

    都道府県CoもJOTの研修受講や、提供症例のラダー到達状況によって等級制度があり、症例対応数や経験年数でラダーアップに影響が出る。また、残念ながら、様々な理由で退職する移植コーディネーターも多く、数年で交代する都道府県では、移植コーディネーターのラダーアップが出来ない。死後提供される臓器移植医療には移植医も必要であるが、移植コーディネーターの存在は絶対不可欠である。多くの支援により工夫して業務の軽減も行っているが、責任が重く多くの確認作業を行い長時間の業務負担のためか、JOT-Co、都道府県Coとも離職者が相次ぎ、経験豊富な移植コーディネーターが激減している。働き方改革は、必要なことであるが、同時進行として、移植コーディネーターの在職率を上げ、キャリアアップできるような環境整備と、一元的な移植コーディネーターの教育が出来るような資格化を早期に図っていただきたいと切に希望する。合わせて、日頃より一緒に活動している各院内コーディネーターの方々も資格化によって必要度が上がり、病院にとって有用な人材になれば、結果、臓器提供症例の増加にも貢献できると考える。

  • 肥沼 幸, 村島 温子, 笠原 群生
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s152_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    臓器移植後の患者は多くの免疫抑制薬での治療を要し、一部の薬剤は、ほぼ生涯にわかって継続することになる。また、様々な合併症に対し、薬剤での治療を要する。これまでに、海外の臓器移植後妊娠レジストリーから、多くの妊娠出産例が報告されており、その中で様々な免疫抑制薬の妊娠中使用における安全性についても検討されてきた。本邦では承認以来、カルシニューリン阻害薬(タクロリムス、シクロスポリン)、アザチオプリンは妊婦禁忌とされていたが、これまでに蓄積してきた安全性情報に基づき、妊娠中であっても治療の有益性を考慮して使用するよう、2018年に添付文書記載が変更された。今回のガイドラインでは、免疫抑制薬だけではなく、降圧薬、抗菌薬のような合併症治療薬についても、妊娠中使用における注意点や安全性情報について解説した。また、近年、多くの薬剤で母乳移行量を測定して非常に少なかったとする報告や母乳哺育中の乳児に有害事象は見られなかったとする研究報告がなされている。これまでは臓器移植後の出産例に対し、免疫抑制薬の使用を理由に断乳を指示されることが多かったが、免疫抑制薬についても、母乳哺育と両立できる可能性があることが分かってきた。しかし、いまだ情報が十分ではない薬剤も多く、新しい治療薬も開発導入されている。それらの薬剤について、妊娠・授乳中使用での安全性評価を目的とした研究をすすめていくことが今後の課題である。今回、肝移植後妊娠管理を行った自験例の情報も含め、妊娠・授乳中の薬剤使用に関する最新の情報を提示する。

  • 牛込 秀隆
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s152_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    妊娠出産は腎移植がもたらす大きな恩恵の一つで、性ホルモン異常の改善をもたらして妊孕性の回復が期待できる。1958年に世界初の腎移植後の妊娠出産例が報告され、本邦では1977年に報告され、いまや腎移植を受けた生殖年齢期の女性患者の約10%が妊娠を経験しているとされている。しかし、移植腎は片腎状態で平常でも過剰濾過の傾向にあり、妊娠による循環血液量の増加はさらに過剰濾過を助長して移植腎傷害に至るリスクがある。移植腎傷害は体液貯留を招き、ベースとなる妊娠による循環血液量の増加と相まって妊娠高血圧症候群や子癇などの母体への影響を及ぼす。母体の影響は胎児にも影響して、流産や早産のリスクを高める。その上で、流産や催奇形性のある免疫抑制剤を妊娠中も併用せざるを得ないのが問題となる。周産期を安全に管理するために、移植腎の状態、併存疾患や服薬状況に制限をもうける妊娠許可基準を含んだガイドラインが欧米で作成され、本邦でも2021年に日本移植学会が中心となってガイドラインを作成した。移植腎、母体や胎児への影響などの腎移植後妊娠出産の現状を踏まえ、腎移植後の妊娠許可基準、周産期の管理を中心に生体腎移植ドナーの妊娠出産についても言及した腎移植後妊娠出産ガイドラインを解説する。

  • 肥沼 幸, 久保 正二, 笠原 群生
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s153_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    肝移植にいたる原疾患には様々なものがあるが、いずれの疾患でも慢性肝不全にいたると妊孕性の低下がみられることがわかっている。肝移植後にはそれらの女性の8割以上で妊孕性の回復がみられるとされる。これまでに国内外から多くの臓器移植後妊娠が報告されており、肝移植後妊娠症例報告数は、腎移植後妊娠についで多い。しかし、臓器移植後妊娠全般において、妊娠中に免疫抑制薬を継続する必要があること、その他合併症に対する治療を要する場合が多いことから、妊娠中管理においては母児ともに様々な懸念がある。これまでの報告では、肝移植後妊娠例の7割以上が健児を得ているが、他の臓器移植後妊娠症例と同様に、早産、児の低出生体重などの頻度が高かったと報告されている。また、妊娠中には、高血圧、妊娠糖尿病などの合併率も、一般の妊娠と比べて高かったと報告されている。このガイドラインでは母児ともに安全な肝移植後妊娠管理を行うため、移植後に妊娠を考えるにあたって準備しておくこと、妊娠中管理において注意すべきこと、出産後の母児ぞれぞれに起こりうる問題やその対応などについて、これまでの国内外のレジストリーや研究報告結に基づき解説する。

  • 小野 稔
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s153_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    臓器移植後妊娠・出産ガイドラインが2021年10月に日本移植学会から発刊された。わが国では最初の移植後の妊娠・出産に関する臓器横断的なガイドラインである。心臓移植後の妊娠・出産は欧米では散見されるようになっており、Transplant Pregnancy Registryにその集計報告が掲載されている。2020年には胸部臓器移植後の妊娠に関するシステマティックレビューが発表され、生出産が70.5%、流産が22.0%、死産が1.9%、中絶が5.8%であった。心臓移植後の妊娠・出産のケアのガイドラインは2010年に国際心肺移植学会から発表されている。いずれもエビデンスレベルは低く、レベルCとなっている。本発表では、本学会から昨年に発刊されたガイドラインに沿って心臓移植後の妊娠ならびに出産についての推奨や留意点について述べててみたい。

  • 星川 康
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s154_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    米国Transplant Pregnancy Registry International Annual Report 2018では、臓器移植後妊娠した全レシピエント数1699人,妊娠3092回のうち、肺移植後レシピエント数38人(2.2%)、妊娠49回(1.6%)と報告されている。49妊娠中、生出産62%、流産26%、死産1%、人工妊娠中絶10%、計画外妊娠58%であった。

    肺移植後レシピエントの妊娠・出産は、早産(50%前後、通常10%前後)、低出生体重児(50%前後、通常4-7%)、妊娠中の拒絶反応(10-15%)、移植肺喪失、母体死が高率に招来される極めて危険性が高いものである。さらに、妊娠・出産を乗り切った後、比較的子が小さいうちに25~40%の母親が死亡している。

    これらのリスクをレシピエントとご家族がよく理解した上で、妊娠・出産を希望する場合、evidence levelの高いデータはないものの、必要な条件を以下のように設定した。移植後少なくとも2年、可能であれば3年経過していること、一定期間拒絶反応がなく、慢性拒絶反応が進行している所見がないこと、移植臓器機能が安定し、直近の感染あるいは慢性感染が持続している所見がないこと、免疫抑制療法が安定した投与量で維持されており、流産や先天異常のリスクを増大させる免疫抑制剤が十分な期間休薬され、併存症がコントロールされており全身状態が良好であること、そして患者本人と家族が妊娠に伴う母体と児の危険性をよく認識していること、である。

    肺移植後の妊娠例の報告で特筆すべきは計画外妊娠が多いことである。妊娠に伴う母体・児の予測される危険性、避妊法、家族計画に関する患者・家族への情報提供・教育・カウンセリングがきわめて重要とされる。

  • 會田 直弘, 伊藤 泰平, 栗原 啓, 剣持 敬
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s154_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     移植医療の進歩に伴い,移植後の生活の質は向上している.移植後に挙児を希望する患者も増加しており,すでに多くの患者が児をもうけている.男性移植患者に限ってみると,米国のNational Transplantation Pregnant Registryの報告では2015年までに879名の移植患者が児をもうけているとされる.心臓,肺,肝臓,小腸,膵臓,腎臓移植のいずれの男性移植患者でも報告があり,このうち43名は多臓器移植患者であった.このようにいずれの男性移植患者でも児をもうけることは可能である.移植後の妊娠・出産においては,主に女性を中心とした報告が注目を集めている.しかしながら,男性移植患者においても継続的な免疫抑制剤の内服が必要であり,薬剤の妊孕性への影響について移植医は十分に認識すべきである.多く使用されるカルシニューリン阻害薬は動物実験において精子数を減少させる可能性が指摘されており,mTOR形成阻害薬はテストステロンの低下,精子数の減少による受精能力の低下が指摘されている.一方でミコフェノール酸モフェチルは妊孕性への影響の報告はない.また、受精後の周産期合併症や胎児への影響についてはリスクが高いと示すものはなく、健常者と同等であると考えられる.男性移植患者の妊孕性や注意点についてガイドラインに基づき解説する.

  • 木須 伊織
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s155_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     近年、生殖補助医療技術の発展により多くの不妊夫婦に福音がもたらされているが、子宮性不妊女性の挙児は困難である。最近、これらの女性が児を得るための1つの選択肢として「子宮移植」という新たな医療技術が考えられている。海外では既に臨床応用がなされ、2014年の生体間子宮移植後の出産の報告を皮切りに、これまでに87例のヒトでの子宮移植が実施され、急速に臨床展開されてきている。

     子宮移植には医学的、倫理的、社会的課題が内包される。医学的課題は、生体ドナー手術の侵襲性をはじめとして、周術期合併症や拒絶反応の回避、免疫抑制薬による感染症対策、ハイリスク妊娠管理、新生児のフォローなど多岐にわたる課題も存在する。倫理的課題は、生まれた子の福祉の尊重、ドナー・レシピエント・児のリスク、生命に関わらない臓器の移植の許容、養子制度や代理懐胎などの他の代替手段との対比、臓器売買やその斡旋などが主な論点として挙げられる。社会的課題は、子宮性不妊患者が児を得るための手段として、子宮移植が社会のニーズとして真に求められているか、社会的価値を検証せねばならない。

     国内においても子宮移植の臨床応用を求める患者の声やその実施を検討する施設が増えてきたことを受け、2019年に日本医学会が関連学会や有識者から構成される「子宮移植の倫理に関する検討委員会」を設置し、国内でのコンセンサス形成に向けた議論がなされ、2021年7月に国内での生体間子宮移植の臨床研究を条件付きで容認する見解が提言された。そのため、近い将来、国内での子宮移植の実施が展開されることが大いに期待される。本講演では、子宮移植の現状とその課題、今後の展望について概説する。

  • 奥村 康, 内田 浩一郎, 竹田 和由, 垣生 園子
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s156_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    1968年当時中山恒明教室の大学院生だった小生は、免疫学の恩師である多田富雄先生がアメリカ石坂公成先生の研究室から持ち帰ったIgEの血清を飛行場で受け取った。それは、日本での抗体産生の免疫メカニズム解明の研究が始まる第1日となった。そのIgEの産生が抑制されるT細胞を発見した当初、多田先生はそのメカニズムに懐疑的であられたが、データが蓄積されると共にその目が輝きだし、1971年サプレッサーT細胞として論文を発表した。

    以来、Tリンパ球の共刺激分子・エフェクター機能や細胞死をはじめ、免疫記憶と呼ばれる抗原選択性と新たに獲得する応答性の変化、中でも免疫寛容という抑制性免疫記憶の誘導と維持メカニズムに強い興味を持ち、その解明に挑戦してきた。 臓器移植モデルにおける拒絶反応の制御はまさにその研究テーマであり、これまで多くの移植医達との共同研究で、FK506、CD86分子、アナジ―T細胞療法の開発につなげてきた。本シンポジウムでは、臓器移植後拒絶反応への挑戦の歴史と将来の展望を伝えていきたい。

  • 堀田 記世彦, 岩原 直也, 高田 祐輔, 樋口 はるか, 辻 隆裕, Ivy Rosales, 村上 正晃, Robert Colvin, ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s156_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    慢性抗体関連型拒絶反応(CAAMR)の克服が、腎移植の長期成績向上に不可欠であるが、確立した治療法はない。それ故、我々はCAAMRとなり得る患者を早期発見する診断法の開発を行っている。パラフィン切片より目的遺伝子の発現量を測定する手法を確立し、組織学的に正常な移植後1年及び2年のプロトコール腎生検検体の遺伝子検索を行った。結果炎症に関連する数種類の遺伝子の発現を組み合わせることにより5年目にCAAMRに至る症例と至らない症例との区別ができる可能性を見いだせた。また、非侵襲的な診断法の開発として尿と血液を用いた早期診断法の確立を試みている。ヒト腎細胞を用いたRNAシーケンス解析より、炎症の基盤であるIL-6アンプに関連する2つの候補遺伝子(ORM1、SYT17)を選定しCAAMR患者の検体で解析したところ、CAAMRの腎組織での上記の遺伝子の発現は亢進していた。また、非CAAMR患者と比較した結果、尿蛋白や尿中NAGは両群で差がなかったが、尿中ORM1,SYT17蛋白は有意に高値であり、2遺伝子が非侵襲的なCAAMRのバイオマーカーになりうる可能性を見いだせた。リンパ球混合反応(MLR)にて免疫反応を評価したところ、ドナーに対するCD4+、CD8+T細胞の反応がCAAMRで亢進していた。また、DSA陽性で組織学的にCAAMRに至っていない症例でも同様の所見が得られ、CAAMRが発症前に診断できる可能性が見いだせた。以上、腎組織、尿、血液を用いた当研究室で開発中のCAAMRの早期診断法について報告する。

  • 田中 友加, 谷峰 直樹, 小野 紘輔, 築山 尚史, 山根 宏昭, 好中 久晶, 中野 亮介, 大平 真裕, 田原 裕之, 井手 健太郎, ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s157_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    臓器移植後の免疫抑制療法では、感染に対する生体防御能を保ちつつ、同種異系 (アロ) 免疫応答を抑制することが望まれる。生体防御を司る免疫機構は、免疫担当細胞に発現する機能分子の遺伝子多型が、感染性微生物やアロ抗原に対する免疫応答に異なる影響を及ぼす可能性がある。本研究では、臓器移植後の特殊な病態で有意となる免疫関連のゲノム情報から術後DSA出現に関連する遺伝子多型(SNP)を抽出し、免疫モニタリング等による免疫監視に基づく個別化免疫抑制療法への可能性について検討した。

    これまでに移植関連で既に報告されている獲得免疫および自然免疫に関連する35のSNPsを候補遺伝子として、肝移植126例・腎移植98例のレシピエントDNAを用い解析した。臨床イベント予測モデルは、候補遺伝子のSNPsと拒絶反応、de novo DSA陽転、との関連解析を実施した。肝移植および腎移植各々で複数のSNPの組み合わせをMultifactor dimensionality reduction(MDR)解析しリスクモデルの選定を行った。臓器移植後の拒絶反応およびDSA出現につながる免疫学的イベントに即した遺伝学的個体差によって、術後の個別化免疫抑制療法の最適化およびDSA出現に対する予防戦略につながる可能性について報告する。

  • 中川 健
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s157_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     免疫抑制剤の進歩とともに臓器移植の成績は格段に向上してきたと言えるが、一方で残された課題も明らかになってきた。ドナー不足からも生体ドナー移植が中心となっている本邦において、抗ドナー抗体(DSA)陽性患者への移植や血液型不適合移植を可能にすることは臓器不全患者の移植医療において大きな意味を持つ。また、抗HLA抗体出現による生着率の著しい低下が明らかになり、抗体型拒絶反応治療の重要性も言われてきた。

     抗CD20モノクローナル抗体のRituximabはB細胞性非ホジンキンリンパ腫の治療薬として開発されたが、B細胞への反応から抗体型免疫反応に対する抑制効果は明らかであり臓器移植領域での有効性が報告されてきた。日本移植学会では1)ABO血液型不適合移植における脱感作、2)DSA陽性レシピエントにおける脱感作、3)抗体関連型拒絶反応治療に対するRituximabでの治療を医療上の必要性が高い未承認薬・適応外薬の要望として第2回検討会議に提出した。先行した1)は2016年に承認され、現在、2)、3)に対する承認にに向けた取組みを行なっている。医薬品医療機器総合機構と協議し、2016年から全臓器への実態調査を行い、2019年に腎移植における治験を開始した。腎以外の臓器移植ではAMED江川斑の研究として一次調査に引続き、個別症例に対する二次調査を行なった。同時に、高容量IVIG治療、抗体検査、抗体型拒絶反応治療に対する血漿交換治療の申請を行ない抗体治療の完成を目指してきた。これらの過程を説明するとともにこれまで得られたRituximabの成績を紹介する。

  • 岩﨑 研太, 友杉 俊英, 関谷 高史, 三輪 祐子, 石山 宏平, 安次嶺 聡, Mohamed B. Ezzelarab, Xiuyua ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s158_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    臓器移植における最重要課題の一つは、de novo donor specific HLA antibody (DSA)による抗体関連型拒絶反応の克服であるが、血清中DSAを測定する以外のリスク評価法はなかった。近年、in silicoによるT/B-cell epitope解析 (PIRCHE, eplet mismatch) を用いたリスク評価が行われている。また、non-DSA症例でde novo DSA産生が早期に惹起される、Shared T Cell Epitopeという概念についても報告してきた。一方で、実際の臨床経過との乖離もあるなどリスク評価の根本的解決には至っていない。我々はレシピエントCD14細胞を用いてドナー細胞貪食抗原提示細胞を作成し、獲得免疫を基盤にしたindirect alloresponseを模倣した実験系による腎移植患者の感作状態の把握を試みた。IL-21産生を指標にpreformed/de novo DSA患者におけるmemory CD4 T細胞応答がDSA産生と関連することを明らかとした。Single cell 解析により、DC実験系で得られる増殖CD4 T細胞はB細胞を活性化する濾胞性T細胞をはじめとしたeffector 細胞のみならず、制御性T細胞など様々な細胞群へと分化していた。また、同一検体であっても異なる採血ポイントで分化パターンは異なっていた。臓器移植ではeffectorの消失とregulatory・anergy・exhaustionへの分化誘導が長期予後に必要であると提唱されている。Indirect alloresponseモニタリングと、誘導細胞種の判別が長期生着に重要であると考えられる。

  • 田中 里奈, 峯浦 一貴, 山田 義人, 大角 明宏, 中島 大輔, 伊達 洋至, Daniel Kreisel
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s158_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    免疫原性の高い臓器の移植である肺移植後の拒絶反応の克服について、マウス肺移植モデルと臨床データから考察する。Balb/cマウス肺をB6マウスに移植し、day 0に抗CD154抗体、day2にCTLA4-Igを投与すると(共刺激シグナル阻害)、その後に免疫抑制は行わずとも、ドナー特異的な免疫寛容が誘導され、day 30の移植肺には制御性T細胞(Treg)が豊富な三次リンパ組織が形成される。この反応は移植後早期に誘導されレシピエント由来の免疫応答が必要である。一方で、Balb/cマウス肺をB6マウスに移植しday30まで低用量のPSLとCsAを投与すると、慢性拒絶を反映した血管気管支周囲のリンパ球集簇と線維化がみられる。これにCTLA4-Igをday30まで追加すると、拒絶は抑制されるが、移植肺内にTregは認めなかった。臨床で用いられるような免疫抑制方法では移植肺にTregは誘導されなかったが、術後早期の共刺激シグナル阻害は豊富なTregを移植肺内に誘導した。また、当科における肺移植症例217例において、術後早期(1か月以内)に急性拒絶(AR)と臨床診断しステロイドパルスを施行したAR発症群96例とAR非発症群121例を比較すると、5年の慢性期移植肺機能不全(CLAD)-free survivalは、AR発症群 57.3%、AR非発症群 71.4%で、AR非発症群で有意に良好であった (p = 0.047)。移植後早期のイベントは移植肺の長期経過に影響を与える可能性があり、新たな術後早期の免疫抑制法の開発や急性拒絶発症後の適切な長期管理の確立が望まれる。

  • 野島 道生, 川喜田 睦司, 峯 佑太, 原 重雄, 山田 祐介, 長池 紋子, 兼松 明弘, 山本 新吾
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s159_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    我々は血液型不適合生体腎移植(ドナーA型レシピエントO型)の14年後に急性大動脈解離を発症し緊急手術を実施、同日O型FFP30単位を輸血、救命されたものの無尿となり移植腎機能を喪失した症例を経験した。血液型抗体による抗体関連拒絶反応(AMR)を疑い2日目に移植腎生検を実施、AMRの診断であった。

    血液型不適合移植前の脱感作および手術ではAB型など抗体を含まないFFP輸血を標準としているが、実臨床では異型FFP輸血に起因するアナフィラキシーが知られており、経験している施設も少なくない。

    この事例は「血液型不適合の患者が移植後の遠隔期に大量FFP輸血を要する場合にどうすべきか」の実例であると痛感した(レシピエントにとって安全な適合輸血あるいは移植腎保護のために不適合輸血の選択を迫られる)。結論を導くのが難しいからこそ「血液型不適合腎移植のガイドライン」にも明記されていないのであろうと推察し、それでも何とかなっているのは腎移植患者が大量にFFPを必要とすることが稀であるためではないかと思われた。

    増加している血液型不適合移植患者がかかりつけ移植施設以外で治療を受けることも考えられる。今回の貴重な経験から、移植医あるいは移植学会から救命治療を担当する救急医・血管外科医等にこのジレンマを情報発信し、問題意識を共有することが生命予後だけでなく可能であれば移植腎も維持するための方策につながると考えられた。

  • 長船 健二
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s160_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    無限の増殖能と全身の細胞種への多分化能を有するiPS細胞(人工多能性幹細胞)やES細胞(胚性幹細胞)から作製された細胞や組織の移植によって臓器機能の回復を図る再生医療の臨床試験が複数の疾患において開始されている。他の臓器と比べ遅れをとっていたが、近年、腎、膵、肝臓領域においてもiPS細胞を用いた再生医学研究が著しく進捗した。演者らも3つの臓器の発生過程を再現し、ヒトiPS細胞から胎生期の腎前駆細胞であるネフロン前駆細胞と尿管芽細胞への独自の高効率分化誘導法とそれらの前駆細胞を用いた腎組織の作製法、さらに、膵島様組織や肝組織、胆管組織の作製法の開発にも成功した。現在、ヒトサイズの臓器としての腎、膵、肝臓の作製法と再生臓器移植の開発に向けて研究を進めている。さらに、移植用臓器の作製に加え、マウスおよびサル、ブタなどを用いた腎疾患、糖尿病、肝硬変の疾患モデルを開発し、ヒトiPS細胞由来腎前駆細胞、膵島様組織、肝細胞を用いた細胞療法の薬効や安全性の検討を行っている。今後数年内のヒトiPS細胞を用いた慢性腎臓病(CKD)、1型糖尿病、肝硬変に対する細胞療法の臨床試験開始に向けて準備を進めている。本発表では、iPS細胞を用いた再生医療全般と演者らの細胞療法と臓器再生など移植治療に向けてのiPS細胞を用いた腎、膵、肝臓再生研究の現状と今後の展望について述べてみたい。

  • 内田 浩一郎, 松本 龍, 徳重 宏二, 原田 昌樹, 広田 沙織, 藤村 操, 竹田 和由, 奥村 康
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s160_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    アロ移植片への選択的な免疫制御機能を持つ誘導誘導型抑制性T細胞は、再生医療等製品としての承認を目指し、医師主導治験にて生体肝移植における、移植免疫寛容という臓器移植後の免疫抑制剤からの離脱状態を誘導する効果について探索中である。この新規免疫細胞は、FoxP3陽性CD4陽性制御性T細胞と抑制性CD8陽性T細胞を主に構成され、レシピエントのT細胞を原料とし、ドナー抗原とT細胞共刺激阻害剤(CD80抗体、CD86抗体)で培養誘導される。先行研究においては、その単回投与により10年以上の免疫抑制剤離脱に成功するという画期的な有効性はもつものの、本治験の実施と将来の普及に向けた開発課題は多い。 特に、肝不全患者や移植ドナーからの自家リンパ球という原料の安定採取、移植後早期からの骨髄抑制下における細胞治療と支持療法、さらには免疫抑制剤の減量・中断の指標の確立は、安全な臨床治療を目指す上で至適使用ガイドラインに入れ込む事項である。 また、寛容誘導により免疫抑制剤関連の副作用の発症リスクの軽減を比較検討するためには、本邦の生体肝移植の臨床レジストリーの構築も必要となるなど、学会連携で進めていかなくてはいけない社会的課題も存在する。 本再生医療の早期の実用化を促進するために取り組むべき課題が洗い出され、医療現場、製剤開発、規制、学会連携を調節し議論を進めていく場が必要である。

  • 出澤 真理
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s161_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    Muse細胞は生体内に存在する腫瘍性を持たない修復多能性幹細胞で、骨髄から血液を通じて各組織に供給され、組織を構成する細胞に自発分化することで傷害細胞を置き換えて様々な組織を修復する。臓器共通の傷害シグナルsphingosine-1-phosphateを検知し、静脈投与で傷害部位に集積する。そして「場の論理」に応じて組織を構成する細胞に分化し、血管を含め修復する。免疫特権を有し、ドナーMuse細胞はHLA適合や免疫抑制剤無しに長期間、分化状態を維持して組織内で生存できる。Muse細胞は遺伝子導入による多能性獲得や分化誘導操作が不要であり、点滴投与で傷害部位に選択的に集積するため外科手術も原則不要である。現在7つの疾患で治験が実施され、全てHLA適合検査や免疫抑制剤投与を行わないドナーMuse細胞の点滴投与によるものである。脳梗塞のプラセボ対照二重盲検比較試験では、標準的な急性期治療を行った後でも中等度~重度の身体機能障害(歩行・トイレ・食事・入浴等に常に介助が必要、あるいは寝たきり・失禁があり常時介護が必要な方)を有する発症後14日~28日以内の患者を対象にMuse細胞製品CL2020あるいは偽薬が点滴で単回投与された。投与後 52 週までの安全性について臨床試験を進める上で問題となる重要な副作用は認められず、有効性評価では介助なしに公共交通機関の利用や身の回りのことができる状態まで回復した割合は、実薬群では約7割に達したが、偽薬投与群では約4割であった。職場復帰を果たせる状態までに達したのは実薬群では約3割であったが、偽薬投与群ではゼロであった。Muse細胞は今後、医療の様々な分野で突破口を開く可能性がある。今後の展望について考察する。

  • 小林 英司
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s161_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     近年のヒトES細胞やiPS細胞などの幹細胞の発見を受けて、多能性幹細胞によるヒトの臓器形成研究が進み自己複製能力および分化能力の観点から、3次元培養で作られるオルガノイド技術が注目されている。しかし、現在のところ小型の細胞集合体は完全な臓器には展開できない。一方、ヒトへの移植に適するように遺伝子改変されたブタが再注目されているが、レシピエントへの過剰免疫抑制が課題である。本講演では、現在行っている臓器移植と再生・置換技術の3つのクロストーク的アプローチを紹介する。①オルガノイド技術と生体適合手術の癒合:これまでブタ等の臓器を界面活性剤で生細胞を洗い流し、血管付きで残った細胞外マトリックスを利用して血管付き臓器を作ろうとする研究手法があったが、In Vitroでの細胞充填に課題を残す。演者らは、患者が持つ他の腸管(大腸)を小腸化するという新しい外科的手技を開発した。小腸オルガノイドを植えた大腸グラフトを同所である終末回腸に置換することで脂肪吸収能を持ち、しかも大腸の蠕動を持ったハイブリット腸管を開発した。②ブタ胎仔臓器をヒト臓器の再生の場として使う技術:ブタの発生途中の臓器は、ヒトへの移植において免疫反応を制御しやすい。またブタ胎仔腎臓にヒト腎臓前駆細胞を注入するとキメラ腎臓が発育する。ブタ組織をコンデショナル・アブレーションし、ヒト化率を高めるアプローチである。③常温機械還流装置と臓器再生の癒合:障害を受けた肝臓をEx Vivoで機械還流培養し再生を試みるアプローチである。現在ブタモデルにてマージナル肝臓を用いて長期に還流培養する装置開発に乗り出している。

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