移植
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認知障害の進行により入院後に手術中止に至った、生体腎移植ドナー予定者の1例
田中 俊明太刀川 公人前鼻 健志川村 加奈子杉原 美樹菊池 知美舛森 直哉
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2024 年 59 巻 Supplement 号 p. s399_2

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抄録

ドナー候補者は70代後半男性。娘婿への腎提供を希望され、X-2年10月に受診した。妻と2人暮らしで生活は自立し、自動車の運転も行っていた。スクリーニングでstage I大腸癌が発見されたが、内視鏡的に治癒切除できた。治療経過で問題となる言動は見られなかった。腎機能その他の検査でも異常なく、腎提供可能と判断した。X-1年11月の最終面談にて、治療の説明および腎提供の意思確認を行い、X年4月の生体腎移植を計画した。手術の5日前に入院、同日に手術の説明および同意取得を行った。同意書に署名したが、その後の確認で「手術なんて受けない。知らない。」「尿の出が悪いので泌尿器科に受診した」と述べた。一方で、「義理の息子を助けたいと思っている」「臓器を提供する」と話された。また、2か月程前から生活の中で困難な動作が増え、妻に叱責を受けることが多くなっていたとのことだった。長谷川式認知機能スケールで16点であり、精神科にて軽度~中等度の認知症と診断された。会話の多くは辻褄合わせであることが示唆された。適切な同意取得が不可能と判断し、生体腎移植を中止した。認知障害そのものは直ちに生体腎ドナーとして不適格条件とはならないと考えられるが、程度によっては意思確認および手術同意取得において問題となる。待機中に認知障害が進行する可能性もあり、高齢ドナーが増加している現状において留意すべき点と考えられた。

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