2020 年 42 巻 5 号 p. 400-405
要旨:症例は40 歳,男性.複視を主訴に受診し,橋右側の脳梗塞の診断で入院した.若年であり,血小板減少とactivated partial thromboplastin time(APTT)延長を認めたため抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome: APS)が疑われた.精査の結果,各種抗リン脂質抗体がいずれも高値であり,ワルファリン内服下で経過観察とした.初診4 カ月後に運動性失語と右片麻痺を発症し,MRIで左中大脳動脈閉塞による左基底核の脳梗塞再発を認めた.APS に伴う主幹動脈病変の経過と判断し,ヒドロキシクロロキンを追加し第14 病日に退院としたが,1 カ月後のMRI で,左視床に新規梗塞巣と後大脳動脈P1 に新たな狭窄を認めた.短期間のみ抗血小板薬を追加し,その後経時的に狭窄は改善し再発なく経過している.本例はAPS に急速に進展した多発性の主幹動脈病変を伴う脳梗塞を繰り返した稀な症例であり,文献的考察を加えて報告する.