【背景および目的】脳梗塞既往が非弁膜症性心房細動(NVAF)例の死亡に及ぼす影響を後ろ向きに検討した.【方法】経口抗凝固療法中のNVAF例を脳梗塞既往383例と非既往838例に分け,観察期間中の全死亡および死因別死亡率を算出した.【結果】脳梗塞既往例の全死亡率は非既往例のそれより有意に高率(8.2 vs. 4.7/100人年,p<0.001)で,背景因子調整後も脳梗塞既往は全死亡のリスクとなった(ハザード比:1.61; 95%信頼区間:1.34–1.93; p<0.0001).死因別では,脳梗塞非既往例に比して,既往例の心血管疾患,脳梗塞および感染症死亡率は有意に高率であった(各々, p<0.05, p<0.001, p<0.001),一方,新生物と大出血死亡率に差はなかった.【結論】脳梗塞既往は,抗凝固療法中のNVAF例の全死亡を増加させ,死因に影響を及ぼした.
【背景および目的】本邦における,皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体顕性脳動脈症(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy: CADASIL)の診療実態を調査した.【方法】日本脳卒中学会員を対象に,「2019年1月から2023年12月の間に各病院の各診療科を受診したCADASIL患者の総数」を調査した.【結果】報告されたCADASIL患者数の合計は315人で,大阪府133人,京都府52人,熊本県19人,神奈川県16人,東京都12人の順に多かった.3人以上のCADASIL患者の診療実績を有すると回答した施設は16施設(7%)であった.施設別では,大阪府の1施設は120人の診療実績を有すると回答し,京都府の1施設が50人と回答した.【結論】本邦におけるCADASIL患者の診療が特定の医療機関に集中している実情が明らかになり,豊富なCADASIL診療経験を持つ脳卒中医が少ないことが示された.
【背景および目的】高齢・過疎地域における脳卒中再発の特徴と転帰を把握するため,地域脳卒中パスを検討した.【方法】石川県能登地区(2020年10月人口17.9万人,65歳以上人口43.1%)での2008–2020年のパス登録7,905件(男性4,195件,女性3,710件,平均76.1歳)を対象とした.【結果】病型は脳梗塞72%,脳出血20%,くも膜下出血6.3%,10万人あたり年間323人であった.同一者のパス登録は720件(616人,最高5回)であり,再登録例では脳梗塞が増加していた.複数回利用者でのパス登録間隔は1年未満が38%,2年未満が58%を占めていた.自宅退院率および予後良好(mRS 0–3)率はパス利用3回目まで利用回数が増える毎に減少していたが,登録4回目では増加に転じていた.【結論】脳卒中パスから,比較的短期間に脳梗塞患者がパス利用を繰り返していることが示された.
【背景および目的】循環器病対策推進計画で,治療と仕事の両立支援体制の整備が提唱されているが,脳卒中患者の就労状況自体不明な点が多い.【方法】2013年4月から2023年3月までに全国労災病院に救急入院加療された脳卒中患者34,809例の年齢,転帰,退院先,発症時点の就労状況(職業・産業分類,雇用形態)を検討した.【結果】全脳卒中患者のうち形態問わず就労していた者は7,333例(21%)で,病型はくも膜下出血9.8%,脳梗塞64.3%,脳出血26.0%であった.非就労者との比較では出血性脳卒中が多く,特に女性のくも膜下出血が多かった.全年齢で正規雇用者は男性で多いが,30代以降でその性差が著明だった.病型による職種・業種・雇用形態の違いを認めた.64歳未満の両立支援対象者の推計は,正規雇用者で7.2%,非正規雇用者を含めて10.3%であった.【結論】脳卒中患者の早期離職の予防や復職支援の導入が急性期医療機関に望まれる.
【背景および目的】放射線誘発性脳海綿状血管腫(cerebral cavernous malformations: CCMs)の臨床像を前向きに検討することである.【方法】計51人の多発性CCMs患者に遺伝子解析を行った.うち4人は頭頚部への放射線治療後CCMs, 1人は脳血管内治療後に生じたCCMsであった.【結果】平均年齢は46.2歳,放射線/血管内治療から CCM変異特定まで平均31.2年であった.5人中4人で髄膜腫を生じ手術を行った.病理診断はmeningothelial meningiomaであった.遺伝子解析では5人とも CCM1(7q)変異を示し,4人でExon5に同一変異様式を認めた.同変異は放射線非関連CCMsの46人では1人にのみ認めた.【結論】7qExon5は他の遺伝子座と比べ放射線感受性が高い可能性がある.放射線誘発性CCMsは非放射線誘発性CCMsとは異なる機序で生じ安定した臨床経過を示すとおもわれた.
視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitis optica spectrum disorders: NMOSD)治療中に,未破裂脳動脈瘤ステント支援コイル塞栓術施行後,遅発性脳内多発性病変を生じた例を経験した.50歳代の女性で,意識障害,右片麻痺で発症し,MRIで脳内多発性FLAIR高信号病変を認め,血清抗アクアポリン4抗体陽性が判明しNMOSDと診断した.ステロイド等投与で改善し,2年後から抗interleukin-6受容体抗体サトラリズマブを開始した.4年後に左内頚動脈瘤塞栓術を施行し,神経学的変化は無かったが,34日後のMRIで左内頚動脈領域に新規FLAIR高信号病変を認めた.病変内部にガドリニウム増強腫瘤を認め,カテーテル材料による異物肉芽腫と診断した.内科的加療で病変は消退しサトラリズマブを再開した.NMOSDに合併した異物肉芽腫について文献的考察を加え報告する.
両側頚部内頚動脈が同時に急性閉塞を来す症例は非常に稀だが,病態は重篤で予後改善には迅速な診断と治療を要する.症例は81歳女性,意識障害で救急搬送され,来院時は心房細動を認め,JCS 300, NIHSS 40点であった.頭部単純CTでは両側ともにAlberta Stroke Program Early CT Score 10点,CT perfusion imagingでは両側大脳半球の広範なtime-to-maximum遅延と,cerebral blood volumeの低下を認めた.Four-dimensional CT-angiographyでは前方循環系の描出を認めず,両側後交通動脈の発達も認めなかったことから急性両側内頚動脈閉塞と診断した.発症1時間程度であったためrt-PA静注療法に加え,機械的血栓回収術を開始し,左はmodified thrombolysis in cerebral infraction (mTICI) grade 3, 右はmTICI grade 2aの開通を得て終了した.しかし神経所見の改善は得られず,両側大脳半球の著明な脳浮腫を来し,術後5日目に死亡した.急性両側内頚動脈閉塞のtherapeutic windowは非常に狭く,再開通までの時間により予後が規定されるため,迅速な診断と治療が望まれる.
症例は24歳女性,妊娠16週3日に排尿後に後頭部痛が出現し救急搬送された.頭部単純MRIでくも膜下出血(WFNS gradeI, Hunt & Hess gradeII, Fisher group 3)を認めたため産婦人科医,麻酔科医と連携して対応した.CT angiography(CTA)で前交通動脈に動脈瘤が疑われたが断定できず,精査目的で脳血管撮影を行なった.最大径1.9 mmの極小の前交通動脈瘤を認め下腹部への被曝を低減するため上腕動脈アプローチで血管内治療を行い術中破裂や脳梗塞なく治療を完遂した.術後は経過良好で第20病日に自宅退院した.再手術なく予定通り妊娠38週3日に帝王切開術で正常児を出産し母児ともに経過は良好である.妊娠中に破裂した極小の脳動脈瘤の精査およびコイル塞栓術は,放射線被曝や造影剤に関して大きな有害事象を認めず,低侵襲な選択肢であることが示唆された.
頚部内頚動脈狭窄症による脳梗塞の発生には動脈硬化巣内容が関与している.そこで内膜剝離術の病理所見について検討した.症例は頚動脈内膜剝離術(CEA)を行った8例.術前のCT, MRI, 血管撮影,病理組織の関係を調べた.病理組織はhematoxylin-eosin(HE)染色,elastica van Gieson (EV)染色を行った.その結果,動脈硬化巣内にelastic fiberを認める症例はなかった.表面rough, 珊瑚状石灰化,T1WI high intensity, T2WI high intensityのある症例でCEAを選択していた.
頭蓋頚椎移行部動静脈瘻の手術では,異常血管の確認のため術中血管撮影が重要であるが,体位変換時のsheathの固定や撮影血管へのカテーテルの誘導が困難である.今回,頭蓋頚椎移行部動静脈瘻の開頭手術において上腕動脈穿刺によりultra-long sheathを鎖骨下動脈に留置して椎骨動脈撮影(vertebral artery angiography: VAG)を行う方法の有用性を報告する.当院で本血管撮影を施行した症例の患者背景や合併症を評価した.企図した4例,5血管でVAGを施行でき,合併症も認めなかった.体位変換も腹臥位における穿刺部の観察も簡便であり,カテーテルの操作性にも優れ,VAGを容易に施行することができた.また,管球を頭側から移動する際の術野との干渉も最小限に抑えられた.本方法は利点が多く,有用な血管撮影方法であり,頭蓋頚椎移行部動静脈瘻の手術における一助となり得ると考える.