論文ID: 10591
任意後見契約は,本人に十分な判断能力があるうちに,自らが選んだ代理人(任意後見人)に,生活,療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約を結んでおく,委任契約である.任意後見契約締結には診断書は必須でないため,判断能力が確認されないまま契約締結がなされることがある.任意後見契約締結に必要な判断能力については議論があり,公表された判例では意思能力の判断基準は示されていない.裁判所における意思能力判定は,診断書等の医学的評価のみならず,契約内容,生活状況,公証人の判断,一般社会通念,公序良俗,等を証拠として,裁判官が,総合的に判断するものと考えられる.よって,医学的見地から判断される任意後見契約締結に必要な判断能力と,裁判所の判断には差が生じうると考えられた.臨床医が,任意後見契約に必要な判断能力と制度の問題点を認識することは,制度の健全な運用や紛争の回避においても有意義である.