抄録
細胞膜の脂質は均一な二次元の流体を形成しているのではなくて, 脂質ラフトと呼ばれるスフィンゴ (糖) 脂質とコレステロールに富んだ微少な膜ドメインを形成して, 細胞膜の機能発現に積極的に関わっている. 近年, 多くのウイルスがその脂質ドメインを利用して増殖していることが明らかになってきた. インフルエンザウイルスのふたつの膜貫通型糖蛋白ヘマグルチニン (HA) とノイラミニダーゼは, ともに, ラフトへの親和性を持っているが, HAが, ラフトへの親和性を介して, 膜上でクラスターを形成することが示された. ラフトへの親和性を欠いたHA蛋白をもつ組換えインフルエンザウイルスは, 粒子中のHA含有量が少なく, 細胞膜との融合能が低下するため感染性が低く, 複製効率が顕著に低下している. すなわち, インフルエンザウイルスが, 脂質ラフトを, HA蛋白の集積装置として, また, 出芽部位への能率的な輸送装置として利用することにより, 効率良く複製することが明らかとなった.