エンベロープウイルスであるHIVは細胞膜由来のエンベロープを粒子の最外層に被る形で細胞膜から出芽する.ウイルス出芽に必須なウイルス側モチーフ(L-ドメイン)としてGagのC末に位置するp6領域内のPTAP配列が同定され,また,このL-ドメインと相互作用する宿主因子としてMVB sortingに関わるTsg101が同定された.MVB sortingは,ある種のユビキチン化タンパク質を積み荷として認識し,エンドソーム膜に輸送した後,エンドソーム膜の内腔側への陥入によって形成される小胞(MVB:Multivesicular body)に積み荷を封入するという細胞内膜輸送系(メンブレントラフィック)の一つである.Tsg101の同定を手がかりに出芽解析が進められた結果,HIV出芽はエンドソーム膜で起こるMVB sortingの機構をウイルスが細胞膜上で利用したものであることが明らかになった.ウイルス出芽機構の解明と出芽阻害法の確立はHIVのみならず,幅広いウイルス種に対しても応用可能であり,個体内および個体間の感染拡大を共通の抗ウイルス作用により防ぐことで疾患の制圧に寄与することが期待される.