ウイルス
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55 巻 , 2 号
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総説
  • 鶴留 雅人
    2005 年 55 巻 2 号 p. 207-219
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/23
    ジャーナル フリー
     ウイルスの膜融合蛋白の大多数は2つのクラスに分類できる.クラスIに属するインフルエンザウイルスの膜融合蛋白(HA)は酸性pHで構造変化を起こして膜融合を媒介する.X線結晶構造解析の結果,HAの構造変化前の(prefusion)構造が1981年に,構造変化後の(postfusion)構造が1994年に明らかになり,これらに基づいて(HAの構造変化で媒介される)膜融合のモデルが提示されている.クラスIIに属するフラビウイルスのEやアルファウイルスのE1も酸性pHで膜融合を媒介する膜融合蛋白である.そのprefusion 構造はHAとはかなり異なるが,postfusion構造同士には類似性があることが昨年明らかになった.一方,パラミクソウイルスのFはクラスIの膜融合蛋白であるが,その構造変化には受容体結合蛋白との相互作用が必要であること,中性pHで膜融合を媒介するのでウイルス感染細胞と隣接する非感染細胞との融合が起こることが特徴である.近年,Fや受容体結合蛋白HNの結晶構造が明らかになったことにより,Fによる膜融合の分子機構の研究が促進されつつある.
  • 佐藤 裕徳, 横山 勝
    2005 年 55 巻 2 号 p. 221-229
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/23
    ジャーナル フリー
     自然界で活発に増殖するRNAウイルスは,突然変異により絶え間なくゲノム情報を変化させる.ゲノム情報の変化は,しばしばウイルスの免疫感受性,薬剤感受性,細胞指向性,宿主域の変化につながり,予防治療効果の低下や新興再興感染症の原因となる.この“moving targets”に対処するには,ウイルスのゲノムと蛋白質の変化に関する情報が欠かせない.現在,自然界のウイルスゲノムの変異情報は急速に蓄積されつつある.一方,変異に伴う蛋白質の構造と機能の変化を実験的に検証するには未だに時間がかかる.本稿では,最も高速で変化する病原体の一つで,治療薬や免疫からの逃避能力に優れるヒト免疫不全ウイルス(HIV)を中心に,RNAウイルスの変異研究の成果を整理する.また,近い将来,生命現象の記述や創薬に重要な役割を果たすと期待されている計算科学的手法をとりあげ,ウイルスの変異解析と創薬の支援に適用した研究を紹介する.
  • 真瀬 昌司, 河岡 義裕
    2005 年 55 巻 2 号 p. 231-237
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/23
    ジャーナル フリー
     現在,アジアを中心にH5N1亜型ウイルスによる高病原性鳥インフルエンザが猛威を奮っており,ヨーロッパへも拡がる傾向をみせている.2004年のわが国の3県における発生から分離されたウイルスは2003年中国で分離された遺伝子型Vに相当し,アジアで優勢な遺伝子型(Z)とは異なっていた.また2003年の動物検疫所におけるウイルスサーベイランスで中国由来輸入アヒル肉からも高病原性H5N1亜型ウイルスが分離された.このウイルスは既知の遺伝子型とは異なっており,またウイルスのマウスに対する病原性はマウス接種後著しく増強した.
  • 今井 章介, 黒田 正幸, 山下 竜右, 石浦 嘉人
    2005 年 55 巻 2 号 p. 239-249
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/23
    ジャーナル フリー
     Epstein-Barr virus(EBV)nuclear antigen 1(EBNA1)はEBV感染増殖細胞で普遍的に発現され,環状EBVゲノム(episome)が感染細胞内で複製・維持されるために必須な唯一のウイルス蛋白である.したがってEBNA1は,格好のEBV陽性腫瘍の治療標的分子になりうると考えられる.我々は,野生型(wild-type, wt)EBNA1のN末側ドメインの大半を欠失するEBNA1変異体を独自に作製,これがwtEBNA1の機能を阻害することで,latency type,cell typeを問わず高率に感染細胞からEBV episome脱落を促進するdominant-negative(dn)EBNA1であることを明らかにした.さらにこのdnEBNA1はウイルスepisomeの追い出しに伴い,EBV陽性バーキットリンパ腫細胞の悪性増殖形質の抑制にも機能することがin vitro,in vivoで確認された.この結果は,dnEBNA1が様々なEBV腫瘍に対し汎用性を有する理想的な新規の特異的遺伝子治療用分子となりうることを示している.ウイルスのゲノム自体を細胞から駆逐するという治療理念は,EBVと同様episomeとして細胞に持続感染する他のウイルスによる難治性疾患にも応用できる可能性がある.また,このdnEBNA1の活用により,従来否定的な意見が多かったEBNA1の直接的な細胞増殖亢進への関与が明らかにできるものと期待される.
特集
  • 小柳 義夫
    2005 年 55 巻 2 号 p. 251-257
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/23
    ジャーナル フリー
     HIVの発見後20年以上を経ても,このウイルスの感染増殖メカニズムを説明する新たな発見が続いている.ウイルスの感染増殖には種々の細胞性因子が必須であるが,最近,APOBECやTRIM5αなどのウイルス感染を抑制する分子が次々と明らかになってきた.このウイルスの細胞内での感染過程において宿主細胞性因子がどのように介在しウイルスを増殖させるかを概説する.
  • 中山 英美, 塩田 達雄
    2005 年 55 巻 2 号 p. 259-265
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/23
    ジャーナル フリー
     HIV-1は宿主域が狭く,ヒト以外に感染する動物はチンパンジーのみであり,アカゲザル,カニクイザル,アフリカミドリザル等の旧世界ザルには感染しない.HIV-1感染阻害はサルの個体レベルではなく,細胞レベルにあると考えられてきた.2004年2月26日号のNature誌に,アカゲサルのcDNAライブラリーの中から,HIV-1の感染を抑制する因子として,TRIM5αを同定したとの論文が掲載された.ヒトのTRIM5αはHIV-1の感染を阻害することができないがアカゲザルのTRIM5αはHIV-1の感染を阻害することができる.以前から,ヒトにはN-MLVの感染を抑制する因子Ref1,アフリカミドリザルにはHIV-1以外にもSIVmacなどのレンチウイルスの感染を抑制する因子Lv1の存在が示唆されていたが,それらが,それぞれの細胞中のTRIM5αであることが明らかにされ,TRIM5αのウイルス特異性を担うアミノ酸配列も,わずか1年半の間に決定された.本稿では,最近のTRIM5αに関する知見をまとめた.
  • 高折 晃史
    2005 年 55 巻 2 号 p. 267-272
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/23
    ジャーナル フリー
     APOBECファミリー蛋白は,Cytidine deaminaseに保存された配列を有する蛋白質ファミリーである.当初,そのプロトタイプであるAPOBEC3GとHIV-1に関する研究により,そのメカニズム等に関する多くの知見が集積された.すまわち,APOBEC3Gは,1本鎖DNAのCをUに変換することにより,G/A hypermutationをウイルスゲノムに導入し,その複製を阻害する.一方,HIV-1 Vifはユビキチン・プロテアソーム径路を用いてこれを分解し抑制する.その後,他のAPOBECファミリーメンバーによる抗ウイルス活性の発見や標的ウイルスの拡大により,本ファミリー蛋白が広範なウイルスに対する抗ウイルス自然免疫として重要な役割を担っている姿が明らかになりつつある.本稿では,その発見の経緯から,現在のトピックスまでを解説する.
  • 三隅 将吾
    2005 年 55 巻 2 号 p. 273-279
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/23
    ジャーナル フリー
     HIV-1粒子内にpeptidyl-prolyl cis-trans isomerase cyclophilin A(CyPA)が取り込まれることは,周知の事実である.しかし,ウイルス粒子を精製し,プロテオーム解析により蛋白質レベルで詳細に解析してみると,すくなくとも4個のisoform(等電点 6.0, 6.4, 6.53, 6.88)が存在することが判った.これらの内CyPA6.00, CyPA6.40, CyPA6.53はウイルス粒子内に存在し,CyPA6.53はアミノ末端がアセチル化を受けていることが同定された.一方CyPA6.88のウイルス粒子外への再分布のメカニズムはまだ判っていないが,ウイルスが出芽後移ウイルス膜を通過することが明らかになった.
  • 安田 二朗
    2005 年 55 巻 2 号 p. 281-286
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/23
    ジャーナル フリー
     エンベロープウイルスであるHIVは細胞膜由来のエンベロープを粒子の最外層に被る形で細胞膜から出芽する.ウイルス出芽に必須なウイルス側モチーフ(L-ドメイン)としてGagのC末に位置するp6領域内のPTAP配列が同定され,また,このL-ドメインと相互作用する宿主因子としてMVB sortingに関わるTsg101が同定された.MVB sortingは,ある種のユビキチン化タンパク質を積み荷として認識し,エンドソーム膜に輸送した後,エンドソーム膜の内腔側への陥入によって形成される小胞(MVB:Multivesicular body)に積み荷を封入するという細胞内膜輸送系(メンブレントラフィック)の一つである.Tsg101の同定を手がかりに出芽解析が進められた結果,HIV出芽はエンドソーム膜で起こるMVB sortingの機構をウイルスが細胞膜上で利用したものであることが明らかになった.ウイルス出芽機構の解明と出芽阻害法の確立はHIVのみならず,幅広いウイルス種に対しても応用可能であり,個体内および個体間の感染拡大を共通の抗ウイルス作用により防ぐことで疾患の制圧に寄与することが期待される.
トピックス
  • 加藤 孝宣, 脇田 隆字
    2005 年 55 巻 2 号 p. 287-295
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/23
    ジャーナル フリー
     C型肝炎ウイルス(HCV)は,1989年カイロン社の研究グループにより発見された.日本では200万人,世界中で17000万人にのぼる感染者が存在し,インターフェロンを中心とした治療が行われているがその効果は未だ不十分である.これまでHCVには良いウイルス培養系と実験用の感染小動物が存在しないことがHCVの基礎研究の妨げになってきた.我々はHCVによる劇症肝炎患者からHCV株を分離し,その株が他の慢性肝炎患者由来の株に比べ,効率的に増殖できることを明らかにしてきた.さらにこの株を用いることにより培養細胞中での感染性HCV粒子生成に成功した.この感染性HCV粒子は培養細胞だけでなくチンパンジーにも感染可能であった.この系を用いることにより,HCVの感染から分泌まですべてのステップが培養細胞内で観察可能であり,ウイルスの複製機構の解明や抗ウイルス薬の開発に有用であると考えられる.
  • 谷口 孝喜, 和久田 光毅
    2005 年 55 巻 2 号 p. 297-302
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/23
    ジャーナル フリー
     ピコビルナウイルスとは,小さなビルナウイルスとして名付けられた,まだ未分類のウイルスである.ビルナウイルスと同様に,2分節の2本鎖RNAをゲノムとして有するが,その性状は互いに大きく異なる.ピコビルナウイルスは,主として,胃腸炎患者の便から,そして,さまざまな哺乳動物,鳥類の便からも検出されているが,その病原性は明確ではない.いずれのピコビルナウイルスも,培養細胞で増殖できず,また実験動物での感染実験系もなく,このウイルスに関する情報はきわめて少ない.遺伝子解析もあまり進んでいなかったが,最近,ヒト由来のピコビルナウイルスの2分節のRNAの全塩基配列が明らかになった.
  • 岡部 信彦
    2005 年 55 巻 2 号 p. 303-306
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/23
    ジャーナル フリー
     我が国における日本脳炎は1950年には年間5000名以上の患者が報告されていたが,1992年以来年間10人以下の発生となり現在に至っている.しかし,ブタの血清抗体調査では,依然我が国には日本脳炎ウイルスは常在していることがわかる.我が国に於いて日本脳炎ワクチンは第一種定期接種として行われていたが,平成17(2005)年5月,日本脳炎ワクチン接種後に発したADEM例について厚生労働大臣が健康被害認定を行ったことをきっかけとし,厚生労働省は「厳格な科学的証明はない」としながらも,マウス脳由来ワクチンからよりリスクの低いワクチンに切り替えられるまで,日本脳炎ワクチンの積極的勧奨を差し控える」とした.近年日本脳炎ワクチン接種後に生じたADEM例の被害救済請求例がやや増加したこともその背景にある.また平成17(2005)年7月,現状の日本脳炎の疫学状況,日本脳炎ワクチンの接種状況等から,日本脳炎ワクチンの定期接種を再開した場合には基礎免疫および2期追加接種の必要性はあるが,3期の中止は可能であるとの判断を厚生労働省は行った.本文ではこれら日本脳炎ワクチンの最近の動きの背景について述べる.
  • 倉根 一郎
    2005 年 55 巻 2 号 p. 307-312
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/23
    ジャーナル フリー
     日本脳炎は日本脳炎ウイルスの感染によって起こる急性脳炎である.脳炎を発症した場合,約20%の患者は死亡,約50%は精神神経に後遺症を残す重篤な疾患である.日本において1960年代1000人以上であった患者数は激減し,1990年以降は10人以下の患者発生である.このような患者数の減少にマウス脳由来不活化日本脳炎ワクチンが果たした役割は非常に大きなものがある.平成17年,日本脳炎ワクチン接種との因果関係が否定できない健康被害(急性散在性脳脊髄炎,(Acute Disseminated Encephalomyelitis,ADEM))の発生により,厚生労働省より「日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨の差し控えについて」の勧告がなされた.本勧告は行政的判断によるものであり,科学的にマウス脳由来日本脳炎ワクチンと急性散在性脳脊髄炎の因果関係が科学的に証明されたことによるものではない.現在,組織培養細胞由来日本脳炎ワクチンの開発が進んでいるが,早期の実用化による積極的勧奨の再開が待たれている.
原著
  • 小木曽 すばる, 白井 淳資, 土屋 佳紀, 本多 英一
    2005 年 55 巻 2 号 p. 317-326
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/23
    ジャーナル フリー
     インターフェロン(IFN)の抗ウイルス作用を指標とした生物活性の測定は,感度が高く抗ウイルス活性を直接反映するため,従来用いられてきた測定法である.しかし測定に使用されるウイルスは水疱性口炎ウイルス(Vesicular stomatitis virus: VSV)に代表されるような,わが国では重要な海外病病原体や,シンドビスウイルスのようにヒトに重篤な感染症を起こす病原体であるため,IFNの抗ウイルス活性を測定する場合はその安全性に配慮する必要がある.そこで,家畜や人に対して危険性の少ない国内病病原体のゲタウイルスを用いたIFNの抗ウイルス活性の測定を50%CPE抑制-クリスタルバイオレット染色法を用いて検討した.ヒトIFN-αの測定では,FL細胞(ヒト羊膜由来株化細胞)を用いると,ゲタウイルスを使用したIFNの測定感度がVSVを使用した場合よりも高く,測定した製品に記載された力価と同程度の測定感度を示した.単層になったFL細胞にIFN処理する単層処理法で測定したIFN力価が,IFN処理と細胞培養を同時に行うまき込み法で測定したIFN力価に比べ高かった.このことから,ゲタウイルスを使用した単層処理法を用いれば,少量のヒトIFNの検出が可能であることが示唆された.MDBK細胞を抗ウイルス活性の測定に用いた場合,IFNの測定感度はVSVの方がゲタウイルスを使用した場合よりも高感度であったが,測定に使用する細胞数およびウイルス力価を調製すればゲタウイルスを使用した場合でも,VSVを用いた場合と同程度のIFN力価を示した.これらの結果より,ヒトIFNの測定にはゲタウイルスが使用可能であることが示された.
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