ウイルス
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平成18年杉浦賞論文
ネコ免疫不全ウイルスの感染指向性に関する研究
下島 昌幸
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2007 年 57 巻 1 号 p. 75-82

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抄録
 ネコ免疫不全ウイルスはネコに免疫不全を引き起こすのであるが,そのウイルス受容体はCD4ではない.我々はこのウイルスが結合するT細胞上の膜分子を探索し,その結果CD134分子を受容体として同定した.CD134分子の発現は,ウイルスの細胞への吸着を促進し,非感受性細胞を感受性とし,ウイルスEnv蛋白質による膜融合を引き起こした.CD134分子は主として抗原提示を受けたヘルパーT細胞に発現する分子なので,ネコ免疫不全ウイルスによる免疫不全は,免疫応答を開始したヘルパーT細胞を感染標的とすることによって起こると考えられる.このことは共通の祖先を持つとされる免疫不全レンチウイルス(ネコ,ヒトおよびサル免疫不全ウイルス)が,必ずしもCD4分子を第一受容体としなくても免疫不全を起こしうることも意味しており,免疫学的にもウイルス進化学的にも興味深い.このネコ免疫不全ウイルスの受容体同定には新規の探索方法を用いたのであるが,その方法をエボラウイルスに応用した.その結果,受容体型チロシンキナーゼであるAxlおよびDtkを同定した.この分子がエボラウイルスの感染を促進させるメカニズムは解析中であるが,生体内での発現分布はエボラウイルスの感染指向性とよく一致している.
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© 2007 日本ウイルス学会
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