抄録
この10数年ほどの間にX線結晶構造解析や核磁気共鳴などの手法を用いることにより,多くのウイルスで重要なタンパク質の立体構造が明らかにされてきた.その結果,ウイルスと宿主の間で起きている相互作用を視覚的かつ原子レベルで議論することができるようになり,ウイルス側と宿主側双方の戦略的なメカニズムについての理解が大いに深まった.本稿では,麻疹ウイルスレセプター結合タンパク質のX線結晶構造解析から見えてきたウイルスの細胞侵入戦略やワクチンが成功を収めてきた分子基盤,さらに新たな上皮細胞レセプターに関する最新の知見について紹介する.また,今回の結晶化に用いた,均一な糖鎖を産生するヒト培養細胞株(293SGnTI(-)細胞)のタンパク質発現系についても取り上げる.