抄録
ヒトノロウイルスは,エンベロープを持たない易変異性RNA ウイルスの一つで,非細菌性急性胃腸炎の主因となる.ウイルスが効率よく増殖する実験系は,まだ無い.近年,このウイルスのゲノミクスとバイオインフォマティクス研究が進み,自然界での分子進化の様式が徐々に明らかになりつつある.また,感染実験が可能な近縁のノロウイルスの研究が進み,構造生物学情報が急速に蓄積している.さらに,公衆衛生や水環境の研究が進み,ノロウイルスの生態学も進展している.本稿では,まず,ノロウイルスとその分子の基本的な特徴を要約する.次いで,近年,世界各地でノロウイルスによる胃腸炎の主因となっているGII/4 亜株の分子の構造と進化の情報を整理する.最後に,これらの知見を併せて,ヒトノロウイルスの生存戦略を議論する.