ウイルス
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特集 第57回日本ウイルス学会シンポジウム特集
わが国の麻疹排除計画とその実践
~2012年の排除を目指して~
多屋 馨子
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2010 年 60 巻 1 号 p. 59-68

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抄録

 わが国を含めたWHOアジア西太平洋地域は,2012年を麻疹排除の目標年と設定している.わが国は2007年の大規模な国内流行を機に,同年12月,2012年度までに国内から麻疹を排除しその状態を維持することを目標に,「麻しんに関する特定感染症予防指針」を告示した.麻疹全数報告制度の開始,5年間の時限措置として中学1年生と高校3年生相当年齢に対する2回目の予防接種機会の賦与,国と自治体に評価・推進体制の確立,国際的な連携など6つの柱が定められた.麻疹排除の状態は,1年間に人口100万人あたり麻疹患者が輸入例を除いて1人未満になることであり,日本では120人未満になることが目標である.そのためには,すべての年齢コホートで95%以上の抗体保有率が必要とされ,その達成には2回の予防接種率がそれぞれ95%以上になることが必要である.全数報告が始まった2008年の麻疹患者報告数は11,015人であったが,様々な対策の成果と自然経過も相まって,2009年の報告数は741人に激減した.しかし,現在の問題点は,報告患者に占める検査診断例が少ないこと,2回目の予防接種率が95%に達していないことである.麻疹ウイルスを直接検出する検査診断体制の強化と,大都市の中学・高校生の接種率の上昇が必要である.麻疹は命に関わる重症の感染症であることを全国民が認識し,公衆衛生・教育・医療・研究機関が連携することによって,地域と国の麻疹対策を強化し,国民全体で2012年の排除に向けた取り組みを徹底する必要がある.

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© 2010 日本ウイルス学会
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