抄録
今日,HIV-1感染症の治療には20を超える薬物が使用可能となり,これらを組み合わせた多剤併用療法は,AIDSの発症率やAIDSによる死亡率を劇的に低下させた.しかし,感染ウイルスの増殖抑制に不十分な薬物量で治療が行われると,HIV-1の易変異性ゆえに感染ウイルスゲノム中に変異が蓄積し,薬剤耐性ウイルスが出現してしまう.結果,病態の悪化をもたらしたり,治療薬の変更も余儀なくさせてしまう.そこで,より適切な治療薬選択をめざし,バイオインフォマティクス技術を利用してウイルス配列情報から抗HIV-1薬の感受性を予測する方法がこれまでに開発されてきた.また,新型シークエンサーによるultra deep sequencingやin silico構造解析により,薬剤耐性の分子機序を理解する試みも行われてきた.これらバイオインフォマティクス技術は,近年のコンピュータの性能の向上もあいまって著しい発展を遂げている.本稿では,これらバイオインフォマティクス技術に基づくHIV-1の薬剤耐性研究について概説する..