2015 年 65 巻 2 号 p. 269-276
C型肝炎ウイルス(HCV)の慢性感染は脂質代謝異常を惹起するが,HCVが効率よく感染し増殖するために,脂質代謝系を様々な局面で利用していることが明らかになってきている.血清中のHCV粒子は中性脂肪やコレステロールを多く含み,様々なリポ蛋白質と結合して,Lipoviroparticlesと呼ばれている.ウイルス粒子に結合したリポ蛋白質は,それらの受容体であるSR-B1やLDLRを利用して,HCVの細胞への侵入にも関与している.さらに,ヌクレオキャプシド形成の足場として細胞質内の脂肪滴を利用することが報告されており,小胞体内腔に出芽したウイルス粒子は,両親媒性のヘリックス構造を持つアポリポ蛋白質(Exchangeable Apolipoproteins)を纏って,細胞外へ放出されることが明らかになっている.このように,HCVは感染環の様々なステップで,脂質代謝系,特にリポ蛋白質の輸送系をハイジャックしながら持続感染していると考えられる.本稿では,我々の成績を中心にして,HCV感染における脂質代謝系の役割を検証し,感染指向性や創薬標的の可能性について考察する.