単純ヘルペスウイルス(HSV: herpes simplex virus)は,ヒトに,口唇ヘルペス,単純ヘルペス脳炎,性器ヘルペス,皮膚疾患,眼疾患,新生児ヘルペスといった多様な疾患を引き起こす.HSV感染症に対しては,幾つかの抗ヘルペスウイルス剤が開発されているが,疾患によってはその効果は極めて限定的であり,ワクチンも未だ開発されていない.よって,現在でも全世界的なアンメット・メディカルニーズが高い感染症である.一方,HSVは,数あるヘルペスウイルスの中で研究が最も進展しているヘルペスウイルスのプロトタイプであり,その研究知見は,効率的に他のヘルペスウイルス研究にフィードバックされている.本稿では,HSV基礎研究の最近の進展に関して,我々の知見に基づき概説し,これらの知見が新しい抗HSV戦略の構築にどの様に橋渡しされうるかを議論したい.