ウイルス
Online ISSN : 1884-3433
Print ISSN : 0042-6857
ISSN-L : 0042-6857
ネオウイルス学
ウイルス共進化:偽遺伝子としての内在性RNAウイルスエレメント
朝長 啓造
著者情報
ジャーナル フリー

2020 年 70 巻 1 号 p. 49-56

詳細
抄録

 RNAウイルスは複製過程でDNAの形態をとる必要はなく,RNAのみで複製サイクルを完結する.一方で,1970年代以降から,RNAウイルス感染細胞内にRNAウイルスに由来するDNA断片が検出されることが知られていた.さらに,21世紀に入り,真核生物のゲノムにはレトロウイルス以外のRNAウイルスに由来する遺伝配列が存在することも明らかとなってきた.これらRNAウイルスに由来するDNA配列は,転移因子であるレトロトランスポゾンが持つ逆転写機構を介して作られると考えられている.内在性RNAウイルス配列の多くは,真核細胞におけるプロセス型偽遺伝子と同じ機構で形成されるが,感染細胞においてRNAウイルスの“偽遺伝子”が作られる意義については明らかではない.著者らは,一本鎖マイナス鎖RNAウイルスであるボルナウイルスに由来する内在性ボルナウイルス様エレメント(Endogenous bornavirus-like elements: EBLs)を発見し,哺乳動物ゲノムにおけるEBLsの多様性と生理的機能について研究を行ってきた.EBLsの解析は,宿主とボルナウイルスとの攻防と共存の歴史をひも解く手段を私たちに与えてくれる.本項では,哺乳動物ゲノムに存在する内在性RNAウイルス配列,特にEBLsの機能についての知見を概説するとともに,生命進化におけるRNAウイルス内在化の意義について考察を行いたい.

著者関連情報
前の記事 次の記事
feedback
Top