抄録
ノロウイルスは,一般に感染性胃腸炎,大規模な食中毒を引き起こすウイルスとして知られており,感染メカニズムの解明やワクチンや治療薬の開発が急務となっている.ノロウイルスには,ヒトの疾患に関係するヒトノロウイルスの他にも,動物の疾患に関係するノロウイルスも存在する.中でも,ネズミの疾患に関係するネズミノロウイルスは,株化培養細胞での増殖培養が可能であるため,長年培養細胞で増殖させることのできなかったヒトノロウイルスの代替えウイルスとして使用され,基礎ウイルス学的研究に寄与してきた.構造生物学的研究の進展により,ノロウイルスは,細胞への感染の際,ダイナミックな形状変化によって感染性を向上させるなど,柔軟性に富む粒子構造を有することが明らかにされた.ヒト腸管オルガノイドの技術発展により,ヒトノロウイルスの腸管での病原性発現機構,感染増殖機構の研究,レセプター分子の探索が進められている.ヒト腸管オルガノイドの利用により,ワクチンや抗ウイルス薬の開発も加速し,実用化を目指した治験が進められている.本稿では,ノロウイルス発見の歴史から最新の研究成果,ワクチン開発についてまとめた.