抄録
レトロウイルスは,ゲノムRNAのDNA変換(逆転写反応)と染色体への組み込み(組み込み反応)により感染成立させる特徴を有し,逆転写酵素(RT)とインテグラーゼ(IN)により連続的に遂行される.RTとINはウイルスゲノムにタンデムにコードされており,両者は融合した形で翻訳されウイルス粒子に取り込まれる.最近我々は,HIV-1 INがRTと融合した状態(RT-IN)を介して逆転写反応をシス制御する可能性を見出した.一方,逆転写反応の鋳型となるウイルスRNAの解析から,HIV-1の転写開始点のゆらぎにより生じる5’末端G塩基数の違いが,HIV ゲノムRNAの粒子内取り込み(パッケージング)を規定し,さらに逆転写反応にも影響を及ぶすことを見出した.本稿では,HIVの酵素タンパク質(RT-IN)およびゲノム核酸(5'UTR RNA)の構造・機能相関研究に関する著者らの研究成果から提示されたHIVゲノム変換機構に関して,逆転写反応を中軸としたレトロウイルス複製の各素過程間の新しい相互連携について考察した.