2023 年 73 巻 2 号 p. 153-162
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は,ヒトに感染し呼吸器症状を引き起こす新たなコロナウイルスであり,2019年の登場以降,世界的なパンデミックを引き起こしている.ワクチンや治療薬の開発と使用を始めとした様々な対策の実施により状況は改善しつつあるが,引き続き対策が求められている.SARS-CoV-2感染に対する免疫応答として中和抗体の産生が重要である.SARS-CoV-2の発生から4年が経過して,感染やワクチン接種後の抗体応答について多くの知見が集積しつつある.ウイルス側にも多くの変化が生じており,中和抗体から逃避するアミノ酸変異を持つ変異株の発生が相次いでいる.本項ではSARS-CoV-2に対する抗体応答,またこれらから逃避する変異株の発生と中和抗体について紹介する.最近の流行株であるオミクロン株やその亜系統には多くのスパイクタンパク質アミノ酸変異があり,既存の抗体医薬の中和活性が著しく低下した.これに対処するべく変異耐性の高いモノクローナル抗体の開発が求められており,特に逃避変異耐性の高いエピトープに着目した研究についても紹介する.