2023 年 73 巻 2 号 p. 173-182
細胞傷害性T細胞(CTL)は様々なウイルスの感染制御に重要な役割を果たしている.CTLはウイルス感染細胞を認識し,それらを殺傷することでウイルスを排除する.最近の研究によりCTLがCOVID-19の感染制御にも重要な役割を果たしていることが明らかになってきている.しかしながら,ウイルス側も進化を続けており,T細胞による細胞性免疫がウイルス抗原変異に対して応答性を維持出来るか否かについて依然として不明な点が多い.我々は,懸念すべき変異株であるデルタ株のスパイクタンパク質のL452R変異がウイルスの感染性を高め,T細胞の認識から逃れることを明らかにした.一方で,その後に出現したオミクロンBA.1株が有する抗原のN末端近傍のG446S変異は,ウイルス感染細胞の抗原提示能を高めることで,逆に,T細胞の抗ウイルス活性増強に寄与することを見出した.このように,ウイルスに対するT細胞応答を抗原特異的T細胞レベルで明らかにすることによって,新たなウイルス/変異株に対するT細胞応答を予測することが可能になり,T細胞を標的とした新たなワクチンならびに免疫療法の開発に発展すると期待される.