抄録
CT10ウイルスのコードする癌遺伝子v-crkは加構造遺伝子gagと細胞由来の癌遺伝子crkとの融合遺伝子である。このv-crk遺伝子はアダプター分子群というSH2およびSH3ドメインからのみなる蛋白群の最初の例である。CT10ウイルスによるニワトリ胎児細胞の形質転換の機構を解析する途中で, v-crk蛋白のSH2領域の機能がリン酸化チロシンを含む蛋白と特異的に結合することであることが解った。この性質は後に, 全てのSH2領域に共通の性質であることが証明されている。v-crkによる癌化の信号伝達系を解析する目的で, ヒトCRK遺伝子がクローニングされた。CRK蛋白はPC12細胞ではRasの上流に位置しており, これを繋ぐ因子として, CRKのSH3領域に結合する蛋白C3GのcDNAがクローニングされた。C3GはやはりCRKのSH3に結合するmSosとともに, Rasの活性化因子であるグアニンヌクレオチド交換因子の一つである。これらの結果から, 細胞増殖因子, チロシンキナーゼ, CRK, グアニンヌクレオチド交換因子, Rasと続く細胞増殖シグナルの流れが明らかとなった。CT10ウイルスはv-crk蛋白を過剰発現することにより, この増殖シグナルを過大に流し, 細胞を癌化に向かわせていると思われる。