ウイルス
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MHVの転写メカニズム
水谷 哲也
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2001 年 51 巻 2 号 p. 225-236

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抄録
コロナウイルス科に属するMHV (Mouse Hepatitis Virus; マウス肝炎ウイルス) は, leader-primed transcription や 3' nested set structure などのユニークな転写メカニズムを持つことが知られている. MHVの genome (プラス鎖RNA) が細胞に侵入すると, 7種類のmRNAに加えて「genome サイズ」と「mRNA (subgenome) サイズ」のマイナス鎖RNAが検出される. しかし, コロナウイルス研究者の間では, この短時間で大量に転写されるmRNAの鋳型となるマイナス鎖RNAが,「genome サイズ」なのか「subgenome サイズ」なのかについての間決着はついていない. それゆえ, どちらが正しいかを決定することは転写ストーリーを完成するうえで重要である. MHVの鋳型に関する研究では, 1990年に Sawicki らが「subgenome サイズ」のマイナス鎖RNAが鋳型になることを発表して以来, この説が支持されてきた. 一方,「genome サイズ」のマイナス鎖RNAが鋳型であると考えていた我々は, Sawicki らの報告から10年目に, genome サイズのreplicative intermediate (これを genomic RIとよぶ) を精製することに成功し, この genomic RIは伸長中のmRNAを含んでいることを発見した. すなわち, MHVのmRNAは「genome サイズ」のマイナス鎖RNAから転写されていたのである. 本稿では, これまでに提唱されてきたコロナウイルスの転写モデルと, 我々の研究結果をもとにしたMHVの転写モデルを紹介していきたい.
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© 日本ウイルス学会
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