ウイルス
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ブニヤウイルス
ウイルスと宿主の相互関係・ハンタウイルスとげっ歯類の共進化
苅和 宏明
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2002 年 52 巻 1 号 p. 61-67

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抄録

ブニヤウイルス科のハンタウイルスはげっ歯類を自然宿主とし, 感染動物の排泄物を介してヒトが感染する. 本項ではげっ歯類媒介性のハンタウイルス感染症について紹介し, 本症の疫学を中心に話題を提供する. ハンタウイルス感染症はこれまでのところ腎症候性出血熱 (Hemorrhagic fever with renal syndrome: HFRS) とハンタウイルス肺症候群 (Hantavirus pulmonary syndrome: HPS) の2つの病型が知られている. HFRSは高熱, 出血および腎機能障害を主徴とし, おもに東アジアやヨーロッパなどのユーラシア大陸を中心に分布している. これに対し, HPSは迅急性の肺機能障害を特徴とし, 発生は南北アメリカ大陸に限局されている. 現在, わが国には本症の発生はほとんどないが, ウイルスはげっ歯類集団に常在しており, リスクファクターの高いヒトの集団からはハンタウイルス抗体が検出されている. ハンタウイルスの血清型, 媒介動物および重篤度には強い相関があること, ならびにウイルス遺伝子の塩基配列から得られた進化系統樹とげっ歯類の系統分類が一致することから, 本ウイルスとげっ歯類は地質学的な長い時間をかけて共進化してきたものと考えられている. 北海道のタイリクヤチネズミ (Clethrionomys rufocanus) は本ウイルスを保有しているが, 極東ロシアにおいても C. rufocanus が北海道のウイルスと近縁のウイルスを保有することが最近明らかになった. また, 極東ロシアではハントウアカネズミ (Apodemus peninsulas) がヒトに重篤な HFRS を引き起こすウイルスの病原巣動物であることも判明した.

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