抄録
下痢症を伴う大動脈弁閉鎖不全症の子ウシ(4カ月齢)が,発育不良のため廃用とされ本学に譲渡された。聴診および心音図検査では拡張期心雑音が認められ,心電図検査ではP波の延長が観察された。心エコー図検査では大動脈弁逆流が観察された。本例では治療を行わず,血漿中心房性ナトリウム利尿ペプチド (ANP) 濃度の推移を経時的に観察した。第2病日と比較して第91病日の左室拡張末期圧は上昇しており,左室拡張末期径および左室内径短縮率の増加も確認された。また,第2病日と比較して第76病日の血漿中ANP濃度は上昇していた。本例において,血漿中ANP濃度の経時的測定は血行動態を推測するための補助的な情報となった。しかし,大動物臨床における血漿中ANP濃度の臨床的意義については不明な点が多く,血漿中ANP濃度の測定に関する臨床的有用性を精査する必要がある。