2020 年 53 巻 1 号 p. 1-11
血圧は常に変動しているが,姿勢変換や運動など体の動きやストレスが加わると大きく変化する。急激な血圧変化に対しては,頸動脈洞圧受容体,大動脈圧受容体および心–肺圧受容体を介する神経性血圧調節機構が作動し,1~2分以内に血圧を元のレベルに回復させる。圧受容体からの情報は求心性神経を介して延髄の心臓血管中枢に伝わり,そこで情報処理されて反射的に自律神経を介して心機能,血管トーヌス,腎機能などを調節している。一方,時間,日,週,月,年単位の長期にわたる血圧調節には主に腎臓による体液性調節が大きく関与している。従来,圧反射系は短期血圧調節のみに関与すると考えられていたが,近年では長期調節にも関わることが明らかにされている。交感神経系の活動は,主に心臓血管中枢と呼ばれる頭側(吻側)延髄腹外側野の抑制性ニューロンの活動により抑制されるといわれる。一酸化窒素は抑制性ニューロン活動を増強し,活性酸素種は抑制性ニューロン活動を減弱させる。レニン–アンジオテンシン–アルドステロン系は視床下部や延髄にも独立して存在し,活性酸素種の産生に関与することが示されている。高血圧や心不全の発症には末梢のみならず中枢神経系の関与が注目されている。