動物の循環器
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イヌおよびラットにおける心電図QTの成因
心筋膜電流の知見を中心として
鈴木 順菅野 茂局 博一
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1994 年 27 巻 2 号 p. 52-59

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抄録

心電図のQRS群からT波までの波形は動物種によって様々な形状を示すことが知られている。イヌの心電図波形はヒトと類似しておりQRSはRs型を示し,続いて明瞭なST分節の後にT波が認められる。一方,成熟ラットの心電図波形はQRS群はRs型を示す点でヒト・イヌと同等であるが,QRS群の後のST分節を欠如し,S波に引き続き陽性のT波が認められる点が異なっている。動物種による心電図QT(QRS-T波形)の相違は,心筋の90%以上を構成する心室筋細胞膜電位波形の特徴を反映している。ラット型の心室筋細胞の活動電位波形は,ヒト・イヌ型のそれに対し,0および1相は同様であるが,それに続くプラトー相(2相)をほとんど認めずに再分極相(3相)に移行する。90%活動電位持続時間(APD90)はヒトで300~400msec,イヌで200~250msec,ラットで30~40msecであり,いずれの動物種でも心電図QT間隔とよく一致している。心筋細胞膜電位を形成する各種イオン電流の役割は,Ina.f(Naチャネル)が,脱分極相(0相)および0電位を越える膜電位逆転相(1相)を形成し,Isi(Caチャネル)が脱分極の維持,IkrとIto(Kチャネル)が脱分極の減少から再分極を起こす。静止膜電位(4相)はIk1により形成される。ラット型心室筋細胞ではヒト・イヌ型に比べ,外向きのIto(Kチャネル)(一部Ikr)が大きく,内向きのIsi(Caチャネル)が相対的に小さいことが知られている。この膜電流の特徴が心電図QRS-T波形の動物種差の成因の一つとなっている。

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