抄録
メモの使用は、記憶障害を有する高次脳機能障害者には必須の外的補助手段であるが、それを効果的・効率的に獲得する方法は、近年まで明確ではなかった。刎田他の実践研究により、高次脳機能障害者への参照→構成→記入という段階的なメモリーノート訓練の有効性が示唆されたが、本研究では、さらに重度の高次脳機能障害者に対し、先行研究の一部 (メモ形式・訓練方法) を改良し、メモ訓練を実施した。具体的には、(1) 長期展望を必要としない項目に訓練項目を絞り、机上訓練を行い、(2) 訓練効果の般化のため、机上訓練の終了段階で、将来の就労環境に近い形での実践訓練を行った。その結果、メモリーノートを出来る限り自分で使用し、適切に作業を遂行する習慣が身についた。さらに、訓練効果を支えた要因を、「本人側の要因」(障害認識と訓練へのモチベーション) と「環境側の要因」(メモリーノートの使用に関する、定期的な個別訓練場面の設定と作業場面での助言・指導) の両面から考察した。