抄録
都市河川である多摩川下流において,河川水中の微生物による石油系炭化水素の分解浄化過程に検討を加えた。
河川表層水の微生物は,ヘキサデカン,オクチルベンゼン,1-メチルナフタレンの石油系炭化水素を,一定期間の誘導期(ラグ)の後急速に分解した。この期間はヘキサデカン<オクチルベンゼン<1-メチルナフタレンの順に長く,物理的,化学的に乳化しても短縮されなかった。しかし,これらの炭化水素で馴化させた後は,ラグ期間なしに分解し,物理的,化学的に乳化しても分解速度は促進されなかった。
石油系炭化水素は分解菌の生産する物質により乳化,微細化され,菌と炭化水素の接触面積,接触頻度が高まって分解されるという物理的,化学的過程ではなく,菌の分解活性の獲得過程すなわち分解酵素生成の誘導という生化学的過程が分解速度に関係した。