抄録
秋田県潟上市に位置する八郎潟旧湖岸水域において, 2006年4月から12月の9ヶ月間にわたり抽水・浮葉・沈水の生活形をもつ水生植物が繁茂する近接した水域を対象に浮遊微生物相の季節的変遷を調査し、植物種が浮遊微生物相および浮遊微生物現存量に及ぼす影響を検討した。調査対象とした水生植物群落は、抽水(アシ:Phragmites australis、ヒメガマ:Typha angustifolia、マコモ:Zizania latifolia)・浮葉(アサザ:Nymphoides peltata、コオニビシ:Trapa natans var. pumila、ヒルムシロ:Potamogeton distinctus)・沈水(オオカナダモ:Egeria dens、ホザキノフサモ:Myriophyllum spicatum、センニンモ:Potamogeton maackianus、ハゴロモモ(別名フサジュンサイ):Cabomba caroliniana)の10種であり、対照として植生の無い開放水面を加えた11区画を調査対象とした。調査した八郎潟旧湖岸水域の11区画では、藍藻(藍細菌)13種、原生生物79種(緑藻類30種、アオサ藻類1種、珪藻類17種、肉質虫類2種、鞭毛虫類11種、繊毛虫類18種)、袋形動物27種(輪虫類20種、腹毛類1種、線虫類6種)、節足動物甲殻類8種(鰓脚亜綱5種、カイアシ亜綱3種)、緩歩動物2種、環形動物門貧毛綱2種の合計131種の浮遊微生物の出現が確認された。ミジンコ類の現存量に着目すると、沈水植物群落では、対照系および浮葉植物群落、抽水植物群落に比較して有意に高い生息密度が認められた。このうち、シダSida crystallinaおよび、シカクミジンコAlona quadrangularis、マルミジンコChydorus sphaericusの3種の現存量は、水生植物の繁茂状況と密接な関係を有しており、特にセンニンモ、ハゴロモモの2種の沈水植物との高い関連性が明らかとなった。このことは、沈水植物がミジンコ類の生息空間として、プランクトン食魚やフサカ幼虫など捕食者からの捕食圧回避に有効に機能していることが示唆された。今後、水生植物が二次代謝する種間情報物質としての他感作用物質(Allelochemicals)が浮遊・付着微生物に及ぼす影響について、さらなる検討の重要性が明らかとなった。