2010 年 46 巻 3 号 p. 137-144
海洋環境中におけるビスフェノールA(BPA)およびビスフェノールF(BPF)の生分解ポテンシャルを評価するため、日本各地から採取した海水試料中の微生物を用いて、BPAおよびBPFの生分解試験を実施した。生分解試験の結果、BPA生分解は11試料中7試料、BPF生分解は5試料中4試料において確認され、BPAおよびBPFの生分解ポテンシャルは海洋環境中にある程度広く分布していることが示唆された。海水微生物によるBPA、BPFの生分解の過程では様々な中間代謝物が検出されたが、それらの中には既往研究で分離されたBPA、BPF分解菌による分解において生成する中間代謝物とは異なるものも含まれていた。このため、海洋環境中には未知のBPA、BPF生分解経路も存在している可能性が考えられた。生分解が確認された試料から分解菌を集積し、純粋分離を試みた結果、BPA分解菌集積培養系から分離された30菌株はいずれも明確なBPA分解能を示さなかった。同様に、BPFについても、集積培養系から分離された19菌株のうち僅か2菌株のみがBPF分解能を有することが確認された。これらのことから、海水中の大部分のBPA、BPF分解菌が最小培地中でBPA、BPFを分解するためには、特定の栄養成分あるいは他の微生物との共生関係が必要であると考えられた。しかし、BPF分解菌であることが明らかになった2菌株がそれぞれグラム陽性菌とグラム陰性菌であったことから、海洋環境中には分類学的に多様なBPF分解菌が存在していることが示唆された。