日本水処理生物学会誌
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調査論文
農業排水の水質浄化のための沈砂池を前処理とした人工湿地による実証試験
中村 和德安田 智史巽龍 太郎鶴田 泰士
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2025 年 61 巻 2 号 p. 31-45

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抄録

 中性化により水質汚濁の進行が危惧される猪苗代湖の水質改善のために、福島県は流入河川の一つに水質浄化実証試験施設(浄化施設)を設置した。浄化施設は、猪苗代湖への水田耕作由来の流入汚濁負荷削減の観点から設置し、前処理槽(Pretreatment)―表面流式人工湿地(1st CW)―浸透流式人工湿地(2nd CW)の3段の処理槽とした。本報告では、浄化施設の設計と開始初期の灌漑期間に得られた浄化効果の検証結果を報告する。処理対象とした河川(農業用排水路)の水質濃度は特に代かき期に懸濁態物質(SS)や粒子態リン(PP)濃度の大幅な上昇が起こることを示した。水田耕作に伴う農業イベント発生や出水以外の期間(平水時と呼称)の調査結果から、除去率を評価指標としてそれを高く維持するためには水面積負荷と除去率の関係を予め調査した上で本格的な運用を実施すること、一方で、除去速度を評価指標としてそれを高く維持するためには高い負荷速度で施設を運用することが有効であることが明らかとなった。1年のうち、特に負荷が増大する代かき期において、SS、有機性炭素(TOC)、全リン(TP)、PP、全窒素(TN)、及び粒子態窒素(PN)のいずれも施設全体の負荷速度と除去速度間に正比例関係があり(p < 0.01)、また平水時と比較すると全ての水質の回帰直線の傾きが大きく、浄化施設が効果的な汚濁負荷削減効果を発揮することが示唆された。流入水の変動に応じて1st CW処理水の濁度が大きく変動した一方で、2nd CW処理水の濁度の変動は小さく、低い値を示した。このことから、粒子態汚濁画分が高濃度となる代かき期間の効果的な浄化処理を行うためには浸透流式人工湿地を組み合わせることが必要であると考えられた。

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