日本水処理生物学会誌
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キレート物質欠乏下におけるかび臭物質産生ラン藻類の鉄吸収
中島 進青山 勲八木 正一
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1992 年 28 巻 2 号 p. 101-108

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抄録

かび臭物質産生ラン藻4種 (琵琶湖産のA.macrospora、P.tenue、O.tenuis及びノルウエー産のO.brevis) を用いて、それらの鉄吸収機構を検討するため、培地中のEDTAを欠乏させ、BPDSを添加し、あるいは鉄源としてスポンジ鉄、鉄粉を用いて培養実験を行った。
培地中にEDTAが存在しない場合 (鉄がコロイド状態で存在) 、1μMレベルの低い鉄の存在下では、A.macrospora、P.tenue、O.tenuisの琵琶湖産の3種のラン藻は鉄を吸収できず殖阻害を起こしたが、コロイド鉄 (冷蔵庫内に保存) の添加量を増すと、A.macrosporaP.tenueは比較的よく増殖したが、O.tenuisは増殖阻害を起こした。コロイド鉄をオートクレープ処理するとコロイド鉄は安定な状態に変化し、琵琶湖産の上記3種のラン藻はいずれも増殖阻害を起こした。BPDSを添加して実験を行った結果と併せて考察すると、光照射により2価に還元される鉄の存在量がラン藻の増殖を左右することが判明した。さらにFe (II) を連続的に供給するシステムとして、スポンジ鉄と鉄粉を鉄源に用いて、上記のラン藻の培養実験を行った。その結果、A.macrospora、P.tenue、O.brevrsはよく増殖したが、O.tenuisでは増殖が抑制された。
以上の結果から、かび臭物質産生ラン藻類は光照射のもとで、2価に還元される鉄量が十分にあればキレート剤EDTAが存在しなくても、A.macrospora、P.tenue, O.brevisは鉄を吸収し増殖できることが明らかになった。しかしO.tenuisはキレート化した鉄で、しかも光照射により2価に還元される有機態の鉄が必要であることが判明した。こうして、鉄吸収の機能面においてO.brevisはきわめて幅広い環境変化に適応しており、今回の実験で検討した4種のかび臭物質産生ラン藻類の中で最も優れていると考えられるのに対し、O.tenuisが最も劣っていることが示唆された。

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