2009 年 63 巻 4 号 p. 378-382
2007年度末には,国内で生産される漂白クラフトパルプの90%近くがECF(Elemental Chlorine Free)漂白によって製造されるようになった。本報告では,漂白工程をECFに転換した17工場の23漂白工程について,漂白工程水と総合排水の有機塩素化合物の濃度レベルの変化を調査した結果の概要をとりまとめた。
ECF漂白への転換は,漂白パルプ工場からの有機塩素化合物(クロロホルム,クロロフェノール類,ダイオキシン類)の排出量を著しく減少させ,問題を指摘されるレベルではなくなった。排水中の全有機塩素化合物を示すAOXは,ECF漂白への転換によって80%減少した。しかし二酸化塩素漂白では微量ながらAOXが生成する。
一方,二酸化塩素漂白の工程水には高濃度のクロレートが含まれ,ECF漂白に転換することによって排出量が増加した工場が多かった。今後,クロレートの環境への影響を調査する必要がある。
無塩素漂白への転換によって,日本の漂白パルプ工場にかかわる有機塩素化合物の問題は解決に向かうが,今後も排水のAOX,COD,BOD,TSS,重金属などの汚濁物質の排出削減に努めることが重要である。将来的には排水の生物影響の低減,臭気や色の改善など自主的な排水の質の向上,および排水量の削減などが求められると予想される。