2009 年 63 巻 4 号 p. 404-413
紙の基本的な製法は,A. D. 105年に中国で発明されたとされている。原料は草木類や衣類のぼろで,手すきで紙にした。この技術が,産業革命により木材を原料とし,機械力で抄紙する近代的な製紙産業に発展する。さらに,1920年代に,記録の媒体であった紙に,包装及びティッシューの用途が加わり,大型装置産業として発展した。しかし,大型化したゆえに環境との折り合いが問題となる。製紙産業は,炭素の循環(森林―製紙(古紙のリサイクル)―焼却(二酸化炭素)―森林による吸収)を組み込んだ数少ない持続型の産業である。
日本の紙・板紙生産量は,最近の中国の急増により世界第三位となったが,依然として有数の製紙国である。国内での原料,エネルギーに乏しい日本が国際競争力を長年保ってきた背景には,それを可能にした継続的な技術開発があるはずである。その歴史を,主要な紙である新聞用紙の生産を通して調査することで,特質を明らかにし次世代の技術開発に役立てることを目指した。
その技術開発の歴史を理解する助けとして,まず,基礎技術の解説を加えた。次回から本論に入ることになる。