2013 年 67 巻 11 号 p. 1308-1315
19世紀の中ごろまで,ヨーロッパ(当時の最高の文明圏)では,ぼろが主要なパルプ原料であった。一方,産業革命により社会が発展し,紙の需要が急増し,新しいパルプ原料が切実に求められ,多くの科学者,企業家が木材よりパルプを得ようと研究を始めた。そしてわずか50年くらいの間に,主要な木材パルプの製造法(GP, SP及びKP)が実用化され,パルプさらには紙の生産量が急増し,社会の文明化に大きく寄与した。
この報告では,それらのパルプ化法が,当時の社会の動きとかかわりながら開発された過程を辿ってみる。まず,前半としてGPとアルカリパルプ(ソーダパルプとクラフトパルプ)を取り上げる。次号ではサルファイトパルプを紹介し,あわせて,木材パルプの実用化が20世紀の社会の発展に如何に影響を与えたかを考察する。
余談になるが,19世紀後半(徳川時代の末期から明治の初期)に,ヨーロッパ内部及びヨーロッパとアメリカの間で密接な情報・技術の交流があり,国を越えた特許制度で技術開発を尊重し,一方ではそれを企業戦略として用いるしたたかさがあったこと等に驚かされた。